16.食事をしたらお勉強(2)
「あなたの訓練ですから」
「殺しにかかったくせに、訓練って言葉で誤魔化すな」
口が悪くなるのは仕方ない。本当に朝から死ぬかと思ったのだ。腹が減るし、煤や埃で真っ黒になるし、お腹は空くし、毒で苦しい思いして、発熱して余計に腹減った。とにかく飢餓状態なのだ。
こんなのおかしい。教育や訓練じゃないだろ。
「
あ、シフェルの死の笑みが出た。これに逆らうと、さらに酷い目を見るんだよな。これ以上抗議しても受け入れられないと判断し、口の中でだいぶ解けてきた干し肉を飲み込んだ。これ以上噛んでも味がしないところまで頑張った自分を褒めてあげたい。
「顎、疲れる」
ぼやいたが、目の前に残っている食料は干し肉、乾パン、牛乳らしき飲み物だけ。この乾パンが日本の非常食と違って、本っ当に硬い。最初にひとつ齧って歯が折れそうな痛みに吐き出した。
薄めた牛乳もどきに浸して、柔らかくして齧るものらしい。味はとにかくマズイ。牛か馬の飼料じゃね? ってくらい美味しくなかった。いや、飼料食べた経験はないけどね。イメージの話さ。
「育ち盛りなのに……」
こんな食事では痩せてしまう。うるうる目を潤ませてお願いポーズをしてみるが、シフェルは天使の笑みで鬼のように却下した。
「嫌なら食べなくていいですよ?」
「すみません、食べます」
お腹は空いている。普通何回も噛んだら満腹中枢だかが刺激されて、少しの量でも満足できる筈なんだ。なのにぜんぜん足りない。
「おれのを分けてやろうか?」
親切なジャックの発言に目を輝かせても、分けてもらえたのは乾パンと干草……じゃなくて、干し肉。顎が疲れる物が増えただけだった。ありがたいから遠慮なく齧るけどね。
「ありがとう」
顎が疲れて痛くなってきた。笑顔が引きつってる気がするのは、きっと顎の所為だ。こっそり机の下で飴を手渡すノアにウィンクしておく。バレる前にポケットに突っ込んだ。
そうか、ノアはあの収納魔法みたいなの使えるから、中から食料品も出せるんだ。後で柔らかくて腹にたまる何かを分けてもらおうと決め、目の前の干し肉を口に放り込んだ。
「まだ午前中の訓練時間が余っていますから、みっちり戦術講義をしましょう」
戦術講義はシフェルが担当だ。口いっぱいの干し肉の所為で話せない間に、彼は勝手に時間割を決めていく。
戦術講義が終わったら、爆薬処理についてヴィリと実戦形式で解体作業、次に銃を撃つ訓練がノアとジャック。午後はリアムによる魔法や歴史などの授業があり、魔力制御もしっかり組み込まれた。夕食時は作法を叩き込まれる。最後に夜間の狙撃訓練があり、眠れるのは深夜――殺す気か?
昼食時間が10分間はマジおかしい。干し肉じゃなくて柔らかい食事なら、我慢するけど……早食いは体に悪いんだぞ。
「何しろ半月ほどで仕上げないといけませんからね」
仕上げられる側の都合も聞いてください。もごもご口を動かすが、干し肉と格闘するオレの苦情はシフェルに届かない。訓練の前に、口の中で水分を吸って大きくなった干し肉にヤられそうだった。
結構本気で負けそう。
涙目で必死に干し肉を片付けるオレがようやく声を出せる状況になったとき、すでに外堀は埋められていた。そう、分刻みのスケジュールでの”お勉強タイム”が始まる。
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