111.頭が頭痛で鼻血塗れ(2)

 非常に情けないが、ベッドに下されるなり嘔吐して、吐血もどきな鼻血も垂らして、最後に咳き込みながら喉の痛みに涙した。もう顔も手もぐしゃぐしゃだ。


「セイ、が……死んでしまう……ぐすっ」


 泣きながら手を握ろうとする恋人の手を避ける。こんな吐しゃ物塗れの手で触れるわけがない。しかし誤解したリアムが涙ぐむにいたり……諦めて好きにさせた。シフェルにめっちゃ睨まれてるけど、お前も同じ立場で嫁に手を握らせるか? 鼻血とゲロ塗れだぞ。


「万能の、浄化魔法……ほしい……うっ……げほっ」


 無理して声を出したら咳き込んで、再び嘔吐した。なぜだ、なぜ頭が割れそうなほど頭痛で痛いのだ……これが伝え聞く病『二日酔い』か?


 ぐったりとシーツに懐いていると、苦笑いしたシフェルが濡れタオルを渡してくれた。まず汚してしまったリアムの手を拭いて、自分の手と顔を綺麗にしてから鼻をかむ。すこしすっきりした。当然のように触れてくるリアムの手を握って、シーツに倒れ込んだ。


「……意外と紳士ですね」


 心底不思議そうに言うな。オレのせいで汚したんだから、最優先で綺麗にする対象は恋人の手に決まってるだろうが……。喉が痛いので文句は声にしない。


「魔力酔いか? 坊ちゃん」


「誰が坊ちゃんだ! ……う゛っ」


 げろぉ……まだ吐ける内容物があったことが不思議。医務室の入り口は、兵士やら傭兵が詰めかけて大騒ぎだった。よく見るとシフェル以外の騎士も混じっている。考えてみれば、医務室を一番利用する連中だから噂が広まるのも早いんだろう。


「昨日あれだけ魔力を使ったんだ。ありえるな」


「……ねえよ。ただの二日酔いだ」


 兵士のバカにしたような言葉に、ジャックが反論した。ぐっと親指を立てて称えておく。満足そうに彼も親指を立てて返事をしてくれた。出会ってからずっとオトン属性発揮し続ける彼は、オレの理解者であり代弁者を自認している。俺も認めてるので、自他ともに認めるオトンだ。


「はあ? なんでガキが酒飲んでるんだよ」


 この世界も子供は酒禁止か? 見た目が12歳だが、中身は24歳だぞ。この野郎――ん? この世界の成人って何歳だっけ。24歳でも成人前と言われたらどうしよう。


「生意気言っても所詮ガキだ」


「言い訳だろ」


 むっとしたオレの代わりに、今度はジークムンドが口を挟んだ。


「ボス、なんか魔法見せてやれよ。まだ余力あるだろ」


「ぜんっ、ぜん……余裕」


 そう返したものの、魔法と言われて咄嗟に思いつかない。爆発させちゃダメだろうし、水浸しにするわけにもいかない。風も部屋が散らかるから……そうだ!

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