52.全滅させるから(3)

 ジャック達数人を連れて右側の崖へ向かう。聖獣とは離れても影を通じて意思疎通が出来るらしいので、今回はブラウを通信機代わりに置いてきた。ヒジリは後ろで元気に尻尾を振っている。


「オレ達が着いたら合図するから、それまでは待機」


 崖を回りこむ前に動き出されると、こちらの奇襲が間に合わない。指示したオレがいない隙間を埋める役がブラウなのは不安しかないが、ヒジリが残るのは嫌だと騒ぐので仕方なかった。


 歩きにくい砂地が続く中、突然銃声が響いた。崖の近くは身を隠せる場所が少なく、苦労しながら茂みの間を抜けていたオレにしてみたら、驚き以外の何もない。


「……なんで撃ち合い始めてるんだ」


 疑問は苛立ちを伴って口をつく。ヒジリが影にもぐり、すぐに戻ってきた。腕を組んで不機嫌さを示しながら待つオレに届けられた報告は、敵が攻め込んできたため応戦したという単純なものだ。


「攻め込んできた?」


 それなら仕方ないと思う反面、違和感が残る。相手の情報は入手済みだった。夜間の奇襲が得意な彼らの部隊は、昼間に正面から敵とぶつからない。だからこそ明るいうちに敵の側面へ回り込む作戦を選んだのに、どうして敵は動いた?


 考えられるのは、どこかから情報が漏れた可能性だ。こんな場面で味方を疑うことは避けたいが、ほかに敵が動く理由がない。


 だけど別働隊のオレの動きがバレたなら、少数で距離が近いオレ達を先に攻撃するのが普通だ。しかも司令官のオレは別働隊にいる。


 なんだか気味が悪かった。いやな予感がする。


「ヒジリ、空を飛べるんだっけ。ちょっと敵側の様子を見てきてくれ」


『承知した』


 空中に地面があるように空中を駆けるヒジリを見送るオレの頭を、ノアがぽんと叩いた。


「ん?」


「ピリピリするな。戦場ではよくあるトラブルだ」


「そうだ。思い通りに行く戦場なんてゼロに近い」


 切り捨てられる使い捨ての立場で生き残った自信なのか。彼らは基本的に楽観的で、現場の状況に合わせて臨機応変にスタイルを変える。生き残るコツなのだろう。


 面倒見がいいオカンであるノアが差し出した水筒を受け取り、水を頭から被った。別に魔法で水を作れるので、遠慮なく全部被ってから頭を左右に振る。金髪がぺたりと肌に張り付いた。いい加減長くなった白金の髪は肩甲骨に届きそうだ。


「うん、助かったよ。ノア」


 にっこり笑うと、ジャックが笑い出した。敵陣が近いのに無用心だが、銃撃戦の音で笑い声くらいかき消される。


「キヨらしい。それで作戦を変更するのか?」


 うーんと唸ったところで、敵陣が騒ぎ出した。

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