52.全滅させるから(2)

「依頼という言い方がおかしいのかもね。オレはきちんと彼らの事情を把握した上で全滅させたいと考えてる。外れたい奴がいれば最初に言ってくれ。途中で抜けたら、後ろから撃っちゃうかも」


 冗談めかした最後の部分に、ジークムンドが大笑いした。傭兵達は呆れ顔でこちらを見ている。すこし温い風が吹いて、気持ち悪さに汗が滲んだ。


「傭兵は金で動く。金さえちゃんと払われれば、俺たちはお前の手足だ」


 ぽんと頭の上に乗せられたジークムンドの手は冷たい。話を聞いているだけだった他の傭兵たちも口々に同意を示した。


「そもそも、傭兵に意見なんて聞く奴はめずらしいぞ」


「確かにな。勝手に使い捨てにされるもんな」


「……キヨ、おれらは常にあの敵の位置にいたんだ」


 ジャックの真剣な物言いに、意味を考える。あの敵の位置とは、いつでも使い捨てで殺される立場ってことだろうか。だったら生き残った彼らは、本当の実力者で運ももっていた。


 前の世界で傭兵なんて近くにいなかった。自分の命を金で買って生活する人種と接したのは、この世界にきてからだ。映画でみた印象から、もっと殺伐とした連中だと思っていたんだ。なのに……実際には人情に厚く、面倒見がよかった。


 こいつらを守るのが司令官であるオレの役目なら、出来ることは決まっている。


「オレは、こっち側を全員生かして帰すつもり。だから協力して欲しい」


 詳しい事情は帰ってから説明すると匂わせれば、最初に動いたのはノアだった。おかんはくしゃりと前髪をかき上げてから、オレの肩に手を置く。


「おれはキヨに従う」


「まあ、仕事だし」


 茶化したジャックが続き、ライアンが静かに頷いた。愛用の半月刀の手入れをしていたサシャが肩を竦める。


「キヨが突拍子もないのも、規格外なのも、いまさらだ」


 いつものメンバーだけじゃなく、ヴィリ達もあっさり承諾してくれた。意外と信頼されているのかな。シフェルが彼らに約束した報酬は、法外なほど高い金額じゃない。裏切ってもおかしくない、ぎりぎりの提示だった。


 シフェルにしてみたら、予算で雇った傭兵がここまでオレについていくと思わなかったんだろう。いつ離れてもいいように、作戦の内容はぎりぎりまで教えないし、武器だって個々に持ち込ませてる。


 彼の対応は、傭兵にとって普通なのかも知れない。オレが少し頼りすぎてるのだとしても、彼らとのやり取りは居心地がよかった。


「悪い。後で説明するから」


 拝むようにすると、ジークムンドが手荒に抱き上げた。肩に乗せる形で担いだ彼は、慌てて頭に手を乗せたオレを見上げて、にやっと笑う。白い歯は数本足りてなかった。


「説明なんざいらねえよ。おれらを生かして帰せ。そんでうまい酒でも奢ってくれたらいい」


「わかった」


 了承すると、傭兵達は一気に盛り上がった。

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