76.熱中症対策で革命を起こせ!(4)

「そうじゃありません。鍋で2~3杯です」


「………シフェル、そんなに飲んだら腹が出るぞ?」


 ビール腹ならぬ、スポドリ腹になる。間違いなくパンパンになるし、トイレ近くなるからオレはお勧めしない。「うわぁ」とドン引きしながら見つめた色男は、舌打ちして説明を始めた。


「私が一人で飲むわけないでしょう! うちの部下や兵士に飲ませるんですよ。喉の渇きがすぐ消えるし、飲んだ後の味もいい。少し酸っぱいですが、身体が楽になった気がします」


「うん、それが目的の飲み物だからね」


 見回した先で、羨ましそうに見ている兵士達と目が合った。おそらく騎士が最優先で、次が兵士、最後に傭兵、余ったら捕虜、が食べ物などの配布順だろう。だとすると、上司の机の上の菓子を勝手に食べた部下扱いか。


 ちらっと見た先で傭兵達はにやにや笑いながら、水筒を傾けている。憂さ晴らしもあるようだが、今回のオレが正規兵じゃなく傭兵の指揮官だから、このスポドリの権利は傭兵の方が上なのか。


 暑くて影もない荒野を、ひたすら歩かされた者は全員喉が渇いている。そこに職業の貴賤はなかった。オレはひとつ溜息を吐く。額を汗が伝い、暑さに辟易しながら鍋に氷と水を作った。


「あるだけ鍋出して」


 自分も取り出した残り2つの鍋に、同様に水を張り氷を浮かべる。上から塩と砂糖を先ほどの目分量で加えて、檸檬を置いたまな板の前にブラウを移動させた。


「ブラウ、薄く輪切りにして鍋に投入。1つの鍋に2個ずつね」


「え……僕がやるの?」


「嫌なら飲むな」


 切り捨てれば慌てて檸檬を操り、風の魔法で薄切りを大量生産していく。ついでに鍋の上に風で飛ばして落とすという技術を見せた。やれば出来るくせに、いつも猫ってのはサボりやがる。その点、ヒジリは猫科だけどきちんと仕事するよな。


 ふとそこで気になった。属性によって得意な仕事や分野が分かれてる可能性あるかも。兵士だと犬、とか? そういや、以前に治癒魔法は鳥属性が多いって聞いた。


 ぼんやり考え事をしながら、ぶつぶつ呟いて鍋を混ぜる。自分で用意した鍋3つ分を終えて振り返ると、大量の檸檬が入った鍋が5つ並んでいた。


「5つでいいの?」


「頼んだ」


「うん、頼まれた」


 塩と砂糖を入れるのも、だいぶ慣れてきた。量はカンで入れて調整のパターンだ。ぶつぶつ呟いてしまうのは、量を頭の中で計算しているからだが……外部からはさぞ不気味だろう。そう思ったオレが動いたとたん、後ろに貼りついてた数人が飛びのいた。


「え? なに」


「いえ……呪文を聞き取ろうと」


「…………………呪文?」


 すっごい怪訝そうな顔をしたらしく、魔術師として同行した彼らはあたふたしている。別に秘伝の呪文や手順はないぞ。


「あ、あの……すみません」


 全員で頭を下げられ、勝手に呪文を聞き取ろうとした魔術師にオレが怒ったと思われたようだ。そんなことはないので、否定しておく。


「いや、呪文はないぞ? ただの独り言だから」

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