76.熱中症対策で革命を起こせ!(3)
好きだった薬品会社のスポドリ系の味に、自分比でかなり近づけたと思う。しっかり氷も足したので、さらに飲みやすいはずだった。
「……ボスが壊れた」
「キヨ、大丈夫か?」
「暑かったんだな……」
「キヨが壊れたと陛下に報告するのは……ちょっと」
ジークムンドから始まり、ノア、ライアン、最後のシフェルに至るまで全員が失礼だぞ。まあ暑さでみんなが壊れかけてる時に、にやにや思い出し笑いしながら調味料入れた水を混ぜて振る舞うなんて――ほかの奴がやってたら、オレだって引く事案だけどな。
「飲んでみろって」
取り出したカップで掬って、隣のノアに渡す。渋い顔をしているが、諦めた様子で口をつけた。
「勇者だ」
「ありえねえ」
「いい加減失礼だからな、これで倒れにくくなるんだよ。水分補給に最適な……っ」
文句を並べる傭兵連中に、前世界の
「おかわり」
「ご……ご自由にどうぞ」
鍋を指させば、ノアは自分の収納から取り出した水筒の中身を捨てて、氷ごとカップで掬って入れ始めた。無言で行われる行動に、数人の勇者が手を伸ばす。カップを入れて掬い、そっと口をつけた。そして彼らもノアの行動に倣った。しかも無言で。
「中毒を引き起こす何かが入ってるのか?」
麻薬扱いしながら、レイルがほんの少し掬って飲む。もう一度掬ったが、今度はカップに満タンだった。勢いよく飲み干し、彼も無言で水筒を取り出した。
「だから、なんで無言になるんだよ」
ぶつぶつ文句言いながら、カップで掬った水分補給液をスープ皿に入れて影の前に置く。ひょいっと首を出したヒジリが飲み始めた。のっそりブラウが出てきて、めちゃくちゃ匂ってカッと目を見開く。
猫のフレーメン反応だっけ? この世界でもあるんだな~としゃがんで見ていると「主ぃ、僕の分がない」と青い尻尾が床を叩く。ヒジリがすでに飲み干した皿は空っぽだった。
「お前がのんびり匂ってるからだろ」
行動が遅いんだよな、猫だけに。
カップで掬おうと鍋を見ると、すでに水も氷もなかった。というより、立ち上がったオレの目に見えたのは鍋の裏側だ。つまり誰かが鍋を傾けて最後の1滴まで回収中という状況らしい。
「……キヨ、これは……」
傭兵達のあまりの食いつきっぷりに、文句を言ったシフェルも口をつけていた。オレの金属カップより品のいい陶器のカップなんぞ使いおって、これだからお貴族様は嫌だ。意味不明のやっかみを込めた「やれやれ」を内心で繰り広げてから、鍋のふちに手をかけた。
元の位置に戻せば、やっぱり中身は空だった。まあこの人数が飲むにしては少なすぎたから、当然の結果だ。傭兵達も水筒を持って待っている奴がいるし、間違いなく足りない。
「もう1杯作るか」
「キヨ、あと2~3杯作れますか?」
シフェルが食いついてきたので、鍋を指さした。
「ここに満タンで作るから、2杯でも3杯でもどうぞ」
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