117.さっそくフラグ回収してきた(2)
煉瓦のビルをいとも簡単に溶かしたキヨヒト。聖獣を操る今なら、もっと簡単に世界を滅ぼせそうな子供は、ぐったりと聖獣の背に凭れている。舐めて傷を癒す黒豹の仕草に慌てた様子がないことから、命に別条がないと知れた。
「おれらの出番がねえな」
キヨが目を覚ますまで、見守る仕事しか残っていない。苦笑いしたジャックが身を起こし、ヒジリが舐めて治癒を施す頭部を確認した。すでに傷からの出血は止まったが、白金の髪は赤く血で汚れている。ノアならば濡れタオルを用意するが、この場の3人はそこまで気が利かなかった。
「あ~あ、綺麗な顔が台無しだ」
左目のあたりを指先でなぞり、ライアンが肩を竦めた。整った顔に切れたような痕がある。銃弾の破片が散ったのだろう。
『青猫の刃がぎりぎり防いだが、すこし遅かったか』
舌打ちしたヒジリが、今度は顔を舐めまわす。見た目は巨大な獣に食べ物認定された獲物のようだ。小さな傷が消えて、左目の下に残った傷もほとんど見えなくなった。薄くなった傷をもう一度舐めたヒジリが、キヨヒトの小柄な体を己の下にしまいこむ。
体重をかけないよう覆った直後、『いいぞ』とヒジリが呟く。合図を待っていたスノーが結界の壁として使っていた水を球体に作り直した。頭上の水がばしゃりと崩れて、ヒジリごとキヨヒトを濡らす。同時に範囲にいた傭兵もびしょ濡れになった。
くらりと眩暈がして、景色が入れ替わる。
「……っ、なんだ?」
「戻ってきた、のか」
「転移魔法陣もないのに?」
ジャック、ジークムンド、ライアンが疑問を口にする。官舎前の芝生の上に投げ出された彼らは、構えた銃口を下した。予期しない転移の直後に銃を抜く所作は、さすが二つ名持ちだ。優秀な傭兵達は転移前の状況を忘れていなかった。
「おい! 医者を呼べ」
ヒジリの傍らに膝をつくと、下に庇う主を預けるために移動する。ずっと一緒にいたジャック達のことを、それなりに信用している証拠だった。膝の裏に手を入れて抱き起す。お姫様抱っこで足早に歩いた。駆け寄ったノアが慌てて濡れタオルを用意する。
ほとんど濡れていないが意識のない子供と、全身びしょ濡れの傭兵3人……何かあったと判断するのに十分すぎた。濡れた毛皮を震わせて水を払う黒豹は、丁寧に毛繕いして追いかける。
「何があった?」
「狙撃だ。キヨが狙われた」
ノアに端的に返すと、芝のあたりで訓練していた連中が集まってきた。ぐったりと目を閉じた子供と、眉間にしわを寄せたジークムンド達の顔を交互にみる。狙撃という単語に、血の気の多い傭兵達がいきりたった。
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