117.さっそくフラグ回収してきた(3)
「なんだと!?」
「あんたら護衛だろ!!」
「文句は後で聞く」
切り捨てたジャックが足を進め、ぞろぞろと掛け足気味に追いかける傭兵達。先に駆け込んだ傭兵の号令で、下の部屋にベッドが運び込まれた。
食堂の脇にある使われていない部屋は、けが人が出た際に仮の医務室として使用される。顔や髪についた血を拭き終えたノアが足を止めた。そのまま中へ子供を運び込んだジャックが、そっとシーツの上に下す。
「ジャック、ケガの状態は?」
「そこの聖獣様に聞いてくれ」
『傷は治したが、我の治癒は対象者の体力を対価に奪う。しばらく目が覚めぬであろうよ』
話を向けられたヒジリはのそのそ近づくと、ベッドの上に飛び乗った。綺麗に拭かれた指や髪を匂ってから、付き添うように寝そべる。外で水気を払ってきたヒジリの毛皮は乾いており、包み込む形でキヨヒトを抱き込んだ。
「皇帝陛下とシフェル殿にも報告が必要だな」
「……それもだが、状況がわからん」
サシャが渋い顔で説明を求める。頷く連中に肩を竦め、ライアンがひらりと手を振った。面倒見のいいノアが用意したタオルで濡れた髪を拭き始める。
「おれが残る」
これで役目が決まった。シフェルと面識があり付き合いの長いジャックが報告役、消去法でジークムンドが傭兵達への説明役となる。
ケガ人の隣で騒ぐ気はないらしく、全員が座れる食堂へ移動となった。濡れた頭や服をタオルで拭うジークムンドが身振り手振り交えて説明を始め、タオルを被ったジャックは騎士団の訓練場がある方へ走る。
騒々しい連中の声は、ぼんやりとだが聞こえていた。
うるさい、頭痛がするってのに……なんだ、あいつら。あんまり騒ぐと叱られんぞ。右手を持ち上げて額を押さえる。左手の上はヒジリがいるので動かせなかった。
『主殿、起きたか』
「うん……つうか、なんだっけ?」
なぜ横たわっているのか。そして「知らない天井だ」と呟いてみる。ブラウの突っ込みがないと眉をひそめ、またサボってるのかと溜め息を吐いた。
「いや、知ってるだろ。キヨ」
隣で突っ込んだのは、まさかのライアンだった。少し考えて。ケガをしたことを思い出す。左側の目元から顳にかけて手を滑らせたが、すでに治療済みらしく傷はわからなかった。
「オレ、撃たれた?」
「覚えてるのか」
驚いたようなライアンの声に重なり、ざわざわと人が近づいてきてドアが開いた。乱暴な扉の開閉音が頭痛に響く。物理的に痛みが走って顔を顰めた。
「セイが撃たれて死んだと……っ! 嘘だ!!」
声と呼び名で誰だか分かったけど……オレ、まだ死んでない……よな?
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