280.見物人が偉そうだねぇ(3)
「貴様ら……」
「シン兄様、少し待って」
唸るように声を絞り出した王太子を止め、オレは笑顔で国王である義父に尋ねた。
「お父様、本日は私的な集まりなのに、どうしてゴミが混入してしまったのですか? 昨夜の掃除が悪かったのでしょうか」
きっちり喧嘩を売るオレは、シフェル仕込みの嫌味を炸裂させる。
「な、平民の分際でっ!」
「平民と言われたが、シュタインフェルトの養子に入った王族だ。名も知らぬ臣下に罵られる所以はない」
まずは正論でひとつ。お前が思ってるより、今のオレは大物だぞ。苦虫を噛み潰したような顔をしていたレイルが、余裕を見せ始めた。耳元のピアスを弄っているので、どうやらこの騒動の顛末を仕入れているらしい。頼りになる情報屋だ。うまく切り抜けたら、さっきの失態は帳消しにしよう。
「だが得体の知れない異世界人ではないか」
「おや、北の国では異世界からの客人への礼儀を知らぬ犬がいるのですか? ああ、失礼。躾の出来ていない野犬でしたね」
こき下ろすが、怒りに拳を震わせる男は食い付かなかった。これは面倒な展開か? 意外と頭が良かったり……しないな、たぶん。
「家族で話すのであろう? なぜ野犬が混じっているのだ」
物知らぬ少女のフリで、リアムが罠を仕掛ける。ここに食い付いたら最後だ。誰も許さないからな。
「うるさい! 女ごときが口を挟むな!」
はい、アウト!
オレが舌打ちしたのを合図に、聖獣達が一斉に牙を剥いた。唸る黒豹の後ろで、コウコが巨大化する。といっても多少サイズ調整してくれたらしい。謁見の広間いっぱいだが、まだ動く余裕を残していた。実際の大きさだと建物が壊れるからね。
「ひっ、卑怯だぞ」
『女ごとき? その女から生まれるくせに、偉そうに何言ってるのよ。この国の聖獣コウコも女よ』
あ、どさくさに紛れて自分の性別を強調しやがった。まあいいや。青ざめたおっさんを尻尾で叩き、側近を蹴散らす。真ん中の偉そうなハゲが首魁だったらしく、周囲の貴族はさっと逃げた。
もちろんオレが逃すわけないだろ。さっと膝を突いて、リアムの手を捧げ持って口付ける。それから彼女の許しを得て立ち上がり、そっと抱き寄せた。ムッとした顔するな、シフェル。今はステイ、動くなよ。
「皇帝陛下にこのような暴言を吐く輩がいるとは、北の国を代表しお詫びさせていただく」
「……女であることが、これほど侮られるとは」
本音が混じった悔しそうな声に、耳元や黒髪、額にもキスを落とした。ごめん、まさかいきなり暴発されると思わなかっんだ。きっちり〆るから許して欲しい。
「聖獣の主人として命じる。その者らを処分しろ」
『承知した』
『わかったわ』
ヒジリとコウコが代表して口を開き、マロンは逃げる連中を片っ端から蹴飛ばしていた。まさに馬に蹴られるってやつだ。悪い顔したスノーが氷で下半身を固定し、もっと悪い笑みを浮かべた青猫が影に引き摺り込む。
あ、こいつら……確実に死ぬわ。
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