67.朝食の係もオレかよ! お前らいい身分だな(2)

「うん。ハーブと塩しかないからさ~」


 諦め半分で答えると、ジークムンドがごそごそと何かを取り出した。収納空間の口をバッグにしているジークムンドは賢い。が、問題もあって大きなものを収納しようとすると、バッグの口に引っかかるのだ。縦に入れた瓶が横向きに出てきたらしく、苦戦しながら向きを変えて引っ張り出した。


「ジーク、バッグの口を大きくしたら?」


「ああ。今おれもそう思っていた」


 だよな~。と互いに頷きながら、手渡された瓶を眺める。中身が分からない。黒い瓶のようだが、振るとほとんど音がしなかった。


「何、これ。開けていい?」


「使えそうなら使ってくれ」


「ありがとう」


 とりあえず初めての、塩以外の調味料だ。たぶん城の料理は様々な調味料を使っていた。塩味オンリーの料理じゃないから調理場に何かあると思うが、調味料をくれと頼むのを忘れたのだ。昨夜まで自分で料理するつもりもなかったので、しかたない。


 この世界の早朝訓練で、戦場では干し肉・乾パン・ミルクもどきが食料だと認識していた。偏った教育はよくないぞ、シフェル。一応成長期の子供だからな、偏らない食生活をしたい。


 黒い瓶をひっくり返して中を覗いても分からないので、蓋をそっと開けてみる。つんと鼻をつく匂い……たぶん、酢に近い酸っぱい味だろう。


「酢かな?」


「おれの故郷では料理に使うが、他の奴らは酸っぱいから嫌がる」


 正直に言おう、酢が苦手な男性は多いぞ。あと勝手に期待してごめんなさい。黒い瓶だから「絶対に醤油だ」と期待してました。黒いお酢って、肉と茄子の炒め物にすると美味しかったな。炒めるくらいなら、なんとか作れるかも。


「砂糖があったはず」


 ほんの少し甘酸っぱかった記憶を頼りに、砂糖とひとつまみの塩を混ぜる。黒い酢を注いで、ナスに似た細長い野菜を手に取った。薄切りの肉をちょっと拝借して……粉。そう何の粉だか知らんが、黒酢炒めは粉がついてて味がしみてた。唐揚げや酢豚の皮みたいなの。


 何とかそれっぽい粉を探すが、種類をそもそも知らない。クッキー作りで使った小麦粉を引っ張り出した。残った材料を放り込んでおいてよかったな、世の中に無駄はない。


「ボス、大丈夫か? 無理ならいいぞ」


 心配そうなジークムンドに親指を立てて、開いているかまどの上に鍋を置く。フライパンがないので、上に肉脂を溶かしてから野菜と肉をぶっこんだ。上から小麦粉をかけて、鍋ごと揺すってまぶす。ここは男料理で野戦料理なので勘弁して欲しい。

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