31.同衾って同性でも使うの?(2)

 オレだったら怒鳴り散らす場面で、リアムは淡々と静かに声を荒げず口にした。シフェルは言葉に詰まったのか、きつく目を閉じて項垂れている。


 なにやら深刻な場面で大変申し訳ないのだが……。


「リアム」


「なんだ?」


「お腹すいた」


 空気を読まない発言なのは重々承知で、腹の虫が喚く前に宣言しておく。だって真剣な話してる感動的なシーンで、オレの腹が鳴るの格好悪いじゃん。それなら自己申告の方がマシだった。


「ぷっ……わかりました。用意させます」


 吹き出したシフェルが表情を和らげて立ち上がると部屋を出た。その後姿を見送ったオレに、リアムは泣き出しそうな顔で抱きつく。反射的に受け止めて、後ろのヒジリに寄りかかった。


 また押し倒されてる気がする。


「ありがとう、セイ。余…いや、俺はいつもお前に助けられているな」


 助けた記憶がないので、何も言えない。リアムが何やら感動しているらしいと判断して、そっと肩を抱き寄せてみた。黒髪から、すごくいい匂いする。


「俺が一族の最後の子なのは事実だ。皇帝になりたくなかったなど、臣下に対して絶対口にしてはいけないのに」


 後悔するリアムの声が震えていて、単純に考えなしの発言が口をついた。


「あのさ、臣下に対して口にしちゃいけないなら、オレに言えばよくね? だって友達じゃん。友達になら愚痴を言っても構わないだろ」


「セイ、に?」


 顔を上げたリアムの目尻に涙らしき光るものがあって、そっと指先で拭っていた。すごいイケメンな行動だが、今はイケメン(仮)だから許されると思う。拭った涙を追うようにリアムが顔をそらした。耳まで真っ赤なのが可愛い。


 その気がなくても美人は好きだし、可愛いは正義だ。


「事情はよくわからないけど、文句や愚痴ぐらいオレが受け止めるよ。だから泣くなよ」


「……セイと出会ってよかった」


 感動の場面で吐かれたセリフに、背筋がぞくっとする。やばい、なんかフラグっぽい。これは帰って来れない予感とかじゃないよな。明日から戦場なのに、そんな別れ際のセリフは怖い。マジ怖いから。


「えっと……オレもリアムと出会えてよかったし、これからも傍にいるからさ」


 フラグ打消しのために、長生きフラグを立てておく。きっと上書きされると信じたい。というか、信じるしかなかった。


 ヒジリがのそりと動いたせいで、オレは背もたれを失って絨毯の中に倒れこむ。幸いにして柔らかい絨毯が受け止めてくれたので、痛みもなく寝転がった。問題はその上にのしかかった状態で、潤んだ瞳の黒髪美人さんだ。

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