18.裏切りか、策略か(19)

 この扱いから判断しても、オレが中央の皇帝として捕まってる事実を、彼らは知らされていない。末端の兵にまで周知する必要がないと考えたのだろうが、これでは警備に支障が出る。実際支障が出たし……。


「夜が明けたな、もう少し寝られるだろう」


 そう言って、若くんがオレを抱き上げた。子供を抱っこするから当然縦抱っこだ。お姫様抱っこじゃないことに安堵しながら、大人しくしていた。事実、眠い。ベッドまで運んでくれるならお任せした方が楽だ。


「子供なんだからしっかり寝ないとな」


 ぽんぽんと背を叩く姿は様になっていて、確かに年の離れた弟妹がいるんだろう。うとうとしながら、そんなことを考える。手で欠伸を隠しながら、魔力感知で周囲を探った。


 特に異常はなさそうだ。警備の人間の数を数えながら、落ちてくる瞼に逆らえず目を閉じた。うん、警備の人間は12人か。さっきまで8人だったから、この騒動で増やしたようだ。


 冷たいシーツの上に下ろされ、上掛けをかけてもらう。訓練所のベッドのマットより柔らかいと思うのは、オレの待遇が悪かったからか? それとも壊される可能性が高いベッドだから安物を使ったのか。


 浮かんだブロンズの髪の美形に悪態を付いて、そこで意識は途切れた。






 リアムは不機嫌な様子を隠そうともせず、腕を組んで庭に立っていた。


「陛下、そろそろ……」


「うるさい」


 一言で侍従の言葉を遮る。斜め後ろに控えるシフェルが騎士服の襟を正しながら、これみよがしに溜め息を吐いた。ちらりと視線を向けるが、リアムは無視して作業を見守っている。


 現在、宮廷の専属魔法師が真剣に黒い沼跡を調べていた。


 戦争で魔法はほとんど使われない。そのため宮廷にいる魔法師はほぼ全員が研究職だった。魔法の発動に関する掟や新たな魔法の開発、また銃弾に魔力を流して殺傷能力を上げる術の研究などが彼らの役目だ。他国と戦争に明け暮れる現在、役立たずと罵られることも少なくない役職なのだが。


 皇帝陛下直々の命令で呼び出された3人は、真剣に芝の上から魔法の痕跡を手繰り寄せていた。元が研究好きな連中なので、没頭すると寝食を忘れるタイプだ。


 見たことのない魔法の痕跡に目を輝かせて調査を進める彼らの背後で、皇帝ウィリアムは動こうとしなかった。自分は守られる立場だと理解している。異世界人であるセイを保護した時点で、彼は自国民と同じだろう。

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