56.卑怯でも勝ちは価値(3)

 うん、わかりやすい揶揄からかわれ方だ。酔っ払いが絡むような言葉に、にっこり笑顔を向けた。怒ってかかってくると思っていた彼が動きを止めた隙に、一気にコーヒーを飲み干す。


「うっ、意外とイケる」


 苦いと決め付けて一気飲みしたオレだが、思っていたよりまろやかだった。もっと味わって飲めばよかったと後悔しかけたオレに気付いたのか、ノアが上からコーヒーを追加してくれる。


「ありがと」


「コーヒーは魔力で味が変わるんだ」


 にやにやしたジャックが肩を組んで話しかけてくる。やっぱり彼も酔っ払いの絡み方だ。なんだろう、一部の連中に対し、このコーヒーは酔っ払い成分アルコールが回るのか?


「味が変わる?」


「同じコップから分けて飲んでも、魔力が充足してる奴は苦く感じるし、不足してる奴ほど甘く感じる」


 ノアが説明しながら2杯目をくれたのは、そういう理由がある為らしい。つまり苦そうな漆黒の液体が美味しいと感じたなら、オレの魔力はかなり減っているって意味だ。さっき話してる間に寝オチしたのも、魔力の使いすぎと疲労が原因だろう。


 この世界に来て、魔法使えたり収納魔法あるし、蔦で襲う薔薇やドラゴンがいて、今回のコーヒーみたいな飲み物があったり、不思議なことが沢山ある。しかし……なんだろう。最初のカミサマの話とえらく違わないか?


 不思議な『騙された感』がじわじわと侵食してくる。


 獣人がいると言われているが、まだ獣耳とか見ていない。もしかして獣分類ならぬ属性だけ? ケモミミとの触れ合いはないのか。嫁候補に黒猫の耳とか似合うと期待してたんだが?! いや、竜属性だけども。


 うーんと唸りながら、2杯目を飲むとさっきより少し苦い。魔力が戻ってるとしたら、このコーヒーはもしかして回復薬か何かかも。ファンタジーで言う魔法薬ポーション的な感じだ。


「どうした? 変な顔して」


「うん、違うなと思ってただけ」


 もっとファンタジーな世界だと思っていたし、オレが知ってる異世界は銃もないし魔法で戦うイメージだった。エルフとかケモミミがいて、もっと……こう、中世の世界観で。前世界の料理知識だけで持てはやされたり、何でも出来る能力をもらってハーレム作れたりすると思ってた。


 いや、ハーレムは言葉のあやで……オレはリアムだけいればいいけど。やだ、自分で考えても照れる。リア充爆発しろと思ってた過去の自分こそ、爆破して消し去りたい。


「よくわからないが、撤収の合図を出して欲しい」


 顔を赤くしたり青くしたり忙しいオレの様子を、彼らは疲れから来るアレコレと都合よく解釈したらしい。他に考えようがないのだと思うが、さっさと連れ帰って眠らせようと考えるのも当然だった。

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