275.パパって呼んでごらん(2)

 ノックの音に反応したじいやが応対している間、ヒジリのブラッシングを始める。というのも、毛皮の艶が悪い気がしたのだ。幸いにしてリアムに貰った動物用のブラシがあるので、丁寧に整えた。夢中になっているオレの後ろから、レイルが呆れ顔で声を掛ける。


「おい、行くぞ」


「どこへ?」


 まったく聞いていなかったんだけど? 素直に首を傾げると、侍従達に運び込まれた洋服が机に積まれている。独特の民族衣装だが……妙に装飾品が多かった。玉と呼ばれる濁った緑や紫の石だ。翡翠ってやつが近いと思う。跡取りの証もこの類だったので、北の国は中国系の文化で間違いない。


 ……三国志とか真面目に読めばよかった。まったく覚えてないぞ。一番記憶にあるのはキョンシー映画と西太后せいたいごうだった。歴史の授業で覚えてるのも始皇帝くらいだぞ。しかも名前だけ。残念なオレの知識では、どの時代の中国か分からないわけだが。


「父がすぐに会いたいそうだ。これに着替えようか、キヨ」


 出会った頃は一人称がおれで、さらに乱暴な口調だったシンも徐々に柔らかくなり、今では過保護な兄である。まあ、捕まって殺されると思ってた敵の大将に、王太子らしく振舞う必要はないけどね。今の過保護さは珍しいのか、手伝いで残った侍従達も驚きの顔で固まっていた。


「何色の?」


 並んでいる服はレイルとオレ、2人分にしては多すぎる。まさかじいやとベルナルドの分だったりして? 赤に黒刺繍、紺に銀刺繍はわりと大きめだ。一番サイズが小さいのは白に金刺繍だけど、これ……派手だな。唸りながら広げていると、我に返った侍従がそれぞれに動き出した。


「第二王子殿下は白、レイル様は赤、おつきの方は紺と黒をお召しください」


 おつきの方……ベルナルドは両方の衣装をしっかり確認した後、紺を手に取った。というか、じいやは筋肉なくて細身だから紺だと服が余る。黒の方が細身に作られていた。飾り物が多く見えたのも、4人分が一緒に運ばれたので当然だろう。


「白……」


 金刺繍がびっしり入ってて、しかも龍。これってさ、あれじゃん? スカジャン系の派手さ。真珠まであしらってあるけど。


「オレが着るの?」


「銀に近い金髪と合うぞ」


 にこにこと服を押し当ててくる姿から、シンが選んだのだと判明した。仕方なく服を脱ごうとボタンに手を掛けて外した途端、焦ったシンに手を掴まれた。


「何をしてる!?」


「えっと、着替え」


 答える間に、部屋の片隅に運ばれた。衝立で囲まれて外が見えなくなる。男だけの状況で、なぜこうなる?

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