139.わかりやすい敵対行為の裏は?(4)

 正座に近い座り方になったため、礼服が急速に血を吸い込んで赤く染まる。緑に金の刺繍を施した豪華な民族衣装は、血の赤を含んで黒っぽく変色した。


「セイ、そなた……ケガしておるのか?」


「……はい」


 否定する必要はないので、頷いてからずるずると赤い絨毯を移動する。駆け寄ったシンが肩を貸してくれるが、身長差がありすぎてぶら下がる形になり、最終的に抱っこに落ち着いた。玉座の真下まで運んだシンへ、下ろしてくれるようお願いする。しかし無視された。


「皇帝陛下、我が弟はこの国の庇護も受けている。そうですね」


 確認するシンが何を言いたいのか、察して口を噤んだ。妙なヤンデレ発言がなければ、彼に任せた方が良さそうだ。頷くリアムと視線を合わせ、心配ないぞとウィンクして見せる。目を見開いたリアムはすぐに表情を取り繕った。


 貴族達がざわめいている。先ほどの処刑命令もだが、オレが中央の国の辺境伯の肩書や王族の分家である名を持ち、北の王族にもなった経緯を思い出したのだろう。そもそも皇帝より地位が高い聖獣達の主であり、ドラゴン殺しの救世主だ。オレをちらちら見ながらの噂話は、分かりやすく広まった。


「王太子殿下、私が説明をお引き受けしましょう」


 レイルの敬語に、首筋が冷えた。似合わねえ。キャラと真逆じゃん。ぞわぞわと落ち着かない気持ち悪さを誤魔化しながら、シンの顔を見上げれば意味ありげに微笑まれた。それ、監禁コースの片道切符じゃないよな? にっこりと無邪気な笑顔を返しておく。


 シンの隣に並んだレイルが、膝をついて礼を取る。王族ではあるが、直系じゃないから? この辺のルールはもう一度おさらいする必要があった。あの頃は必要な知識だと思わなくて、さらりと読み流した気がする。


 今後の必修科目だわ、これ。王族の立ち振る舞い、復習しなくちゃ絶対ボロボロにボロ出る。


「本日の夜会の控室にて、冷茶が用意されておりました。知らずに注いで飲んだ第二王子殿下が嘔吐され……あの場にメッツァラ公爵閣下もいらっしゃいましたね」


「ええ、その後の狙撃現場にも居合わせました」


 悲痛そうな表情を作ったイケメンが俯くと、さらりとブロンズ色の髪が顔を隠す。すごく悲痛な感じが良く出ていた。この茶番劇がリアムの為になるから我慢するけど、そうじゃなかったら腹抱えて笑いながら全員の顔を覗いて回ってるからな。


 ヒジリが後ろから身体を支えるように鼻を寄せる。獣の仕草だが、これが聖獣の黒豹というだけで深読みする輩が出るものだ。


「聖獣様も心配しておられるわ」


「契約した主の傷だ、さぞ悔しいでしょうね」


 ご婦人方の同情を引いたところで、再び演劇の幕が上がる。

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