257.集え、日本人会(2)

「宮殿、ですか」


 どうやら上位貴族らしいと思ってるんだろ。


「ここって予約は誰の名前で取ったの?」


「メッツァラ公爵家、親族御一行様ですな」


 タカミヤ爺さんが先に答えた。うん、あれだ。シフェルの家なら、誤魔化しがきくもんな。


「シフェルが無難だろうと言ってたが」


 クリスティーンが肩を竦める。オレは北の王族扱いだし、皇帝陛下で予約取るわけにいかないもんね。悩んだ末の結論が、上位貴族なら扱いもいいだろうの妥協案だったのか。


「バラすよ?」


「問題ないのか」


 心配そうなクリスティーンをよそに、リアムはごろごろと後頭部を膝に押し付けている。構って欲しい猫みたいで愛おしいんだけど?! 襲われたいのかな?


「日本人の口の堅さは信用していいよ」


 好々爺よろしく頷いてるけど、腰抜かすなよ。タカミヤ爺さんには、どっちにしろ味方についてもらうしかない。逃げ出したり余計な口を開くなら、塞ぐしかないけどね。


「お客様の情報を漏らさない口の堅さは、旅館の自慢ですからな」


 ある意味、旅館のランクを決めると言ってもいい。今なら侍女と一緒に女中さんが離れてるから丁度いいしな。


「執事として勤める主人はオレだけど、宮殿の主はこのリアムだ」


 宮殿の主、そう呼ばれるのは皇帝陛下本人だ。ごろんと寝転がって、恋人の膝に甘える少女が皇帝陛下と言われて、どう反応するか。それによってはタカミヤ爺さんは諦めて、今の話を冗談で終わらせるしかない。


 無言でじっとリアムを見て、続いてオレの目を見たタカミヤ爺さんは静かに頭を下げた。


「中央の宮殿の御当主の配偶者がキヨ様、しっかりお仕えさせていただきます」


「合格! やっぱ日本人だね」


 クリスティーンもほっとした様子で、短剣の柄を握る手を緩めた。物騒だけど。まあ秘密を守るには、命を狩るのが一番早くて確実だったよな。そういう世界だもん。オレの知る世界の価値観を持ち込んじゃダメだよ。


「クリスはメッツァラ公爵夫人で、護衛騎士。オレはまあ、異世界人のチートで上り詰めたけど……地位は後で情報として渡すね」


 自分の口から名乗るには、恥ずかしい名前がいっぱいなんだよ。照れながら誤魔化そうとしたオレに、予想外の伏兵がいた。


「ドラゴン殺しの英雄、聖獣すべての主人にして契約者。中央の皇帝の婚約者に内定し、北の国の王家に養子に入った。さらに傭兵の間では『死神』の二つ名で呼ばれる実力者で、自在に魔法を操る。中央の国が平定したと言われる東西南北のすべての国は、すべてセイの功績だ」

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