65.捕虜にメシ抜きはないわ~(3)

 訓練してた頃は、テーブルマナーの先生の目を掻い潜って白パンを集めてたなんて……今となっては懐かしい話だった。


「……何もしゃべらんぞ」


 懐柔策かいじゅうさくの一環と考えたのか、一番階級が高そうな男がまた噛み付いてきた。いらっとしたジャックが銃を抜きかけるが、彼の手をオレが掴む。


「いいんじゃない? 喋らせるのはオレの仕事じゃないもん」


 言い放って、ひとつ欠伸をした。過保護なオカン……ノアが小さめの毛布を肩にかけて連れて行こうとする。食事後に眠くなる幼児じゃないんだからと思うが、やたら眠かった。


 大柄な傭兵連中の中で余計小さく見えるオレを抱き上げて、ノアは背中をとんとん叩きながら歩く。完全子供扱い確定だった。でも気持ちいいから許す。


『主殿、魔力を使いすぎたのではないか』


 ヒジリの指摘に、首に絡まっていたコウコが腕に下りてきた。


『微熱だけれど体温が高いわ』


 コウコの指摘に、ヒジリが唸る。なにやら懸念材料でもあるのか、心当たりがあるのか。後ろを歩きながら大きく尻尾を振っていた黒豹は、ベッドに寝かされたオレに近づいてきた。


「あ、ベッド出さないと……」


 残る寝具やベッドを収納魔法に取り込んだままだ。テントや調理関係の道具と食料品しか出していないのを思い出し、ベッドの上に座った。すこし視界が揺れる気がする。


「足元に出せ。引っ張ってやる」


 ノアの声に従い、足元に敷かれた敷き物の上に折りたたみベッドの足を出す。ノアが引っ張っていくと、今度はジャックが待っていた。また足だけ出して引っ張ってもらう。


 何これ、すごい楽。次からテントの取り出しも手伝ってもらおう。収納口からオレが最初に引っ張れば、後は他の人でも出せるなんて知らなかった。無知ゆえに毎回自分で出し入れしなくてはならないと、頑なに信じていた自分がバカみたいだ。


 ライアンやサシャも手伝ってくれたので、シフェルに無理やり押し付けられた40台前後のベッドをすべて出し終えた。寝具も少し出せば、後は傭兵達が自ら受け取りに来てくれる。呆れ顔のレイルも最後は手伝ってくれた。


「にしても、驚く魔力量だ」


 大量に収納して空間を維持するには、大量の魔力が必要らしい。シフェルの簡単な説明でわかったのはその程度で、どこからが非常識な収納量か知らない。沢山持ち歩けるのは便利だし、聖獣と契約すると魔力量が増える話があったから、きっと聖獣のおかげだろう。


「……終わりぃ」


 ぱたんとベッドに倒れこむ。やっぱり怠い。ずっと倦怠感が抜けないから、動くのが面倒だった。ぐったりしているオレの様子を見ていたヒジリは、複雑そうに切り出した。


『主殿の体調不良は、我らの所為かも知れぬ』

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