66.男に押し倒される趣味はない(1)

「ん?」


 シーツが少し硬い。贅沢を覚え始めたオレだが、さすがに空気を読む日本人なので口に出さない。ヒジリがベッドの脇にお座りして、じっとこちらを見つめた。その足元でブラウがコウコに締め上げられている。


 何故にうちの聖獣は仲が悪いのか。


『主殿が体調を崩すのは、いつも聖獣と契約したり我らの力を使った後だ』


 申し訳ないとしょんぼりするヒジリの髭が、濡れたみたいに下へ垂れている。ついでに尻尾もぺたんと床に落ち着いて動かなかった。本気で反省しているらしい。


 一度横になったベッドの上で身じろぎすると、気付いたノアが起こしてくれた。戦場で使う折りたたみベッドは簡易タイプで、背もたれになる場所がない。結局ノアがベッドに座り、オレを抱っこする形で椅子になってくれた。


「ありがと、ノア」


「いや」


 気にするなと微笑む彼は、本当にオカンすぎて……背中に感じる温もりが優しい。熱はオレのがあるんだろうけど、じんわりと伝わる体温は心地よかった。


「あのさ、聖獣と契約したのはオレの意思だし……原因だとしてもヒジリが気にする必要はないと思うんだ。それに魔力量が多くなったことで、あれこれ魔法が使えるわけじゃん」


『主殿、忘れているようだが……我も青猫も赤龍も、みなが勝手に主殿と強制契約しておる』


「………ああっと、確かにそうだったか」


 ヒジリは四方八方から魔法陣で縛って気を失ったオレと契約したし、押しかけたブラウはアニメ繋がりで契約、コウコに至っては勝手に契約が終わってた。オレも拒否しなかったから、これはある意味合意だと思うわけだ。


「オレがいいって言ったら、それでいいだろ」


 強引に話を切り上げようとするが、ヒジリの髭も尻尾も項垂れたままだ。ふと、塹壕堀り前の会話を思い出した。


「そういや、ヒジリ。お前……オレの手を噛みたいんじゃなかったか?」


『噛んでも良いのか!?』


 こっちが引くぐらいの食いつきようだ。なぜ、そこまでして噛みたい? ブラウはやらないのに、コウコもしないな。


「ちゃんと治せばいいぞ。そういやコウコやブラウはやらないよな~」


 これが最悪のフラグだと気付くのは、僅か数秒後のことだった。近づいたコウコが金色の瞳を輝かせる。


『あたくしも噛みたい』


『あ、僕もお願いしま~す』


「………は?」


 青猫ブラウと赤龍ならぬ赤蛇状態のコウコは、興奮の鼻息が感じられそうな距離で喜んでいる。どうしよう、聖獣って変態ばっかりなの?

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