149.いわゆる「頭が真っ白」状態(2)

 今のオレはリアム中心だ。


「ベルナルド殿は、陛下に忠誠を誓っておられたはず」


「そうですな。ですが、今は隠居の身です。老い先短い私が新たに仕える主を見つけられたのは、幸運でしょう」


 遠回しに今後の主人はオレで、皇帝陛下リアムじゃないと言い放った。その真意がわからず、困惑するオレ達の間に、レイルが割りこむ。


「指輪を見てその判断をしたのか?」


「そうですな」


 全員がオレの指輪に注目した。この場で指輪の由来を知っていそうなのは、レイルとベルナルドだけだ。


「レイル、この指輪なんなの?」


 聞き方は雑だが、得体が知れないものが指に絡まっている状況で、あまり理的な言動をオレに求めないで欲しい。いや、普段から理性ないんじゃね? とか言われそうだが。


「んん? そうだなぁ。この世界の奴なら大抵知ってるが『支配者の指輪』って名前がある」


「それがっ!?」


「え? なんでキヨの指に!」


「本当か?」


 シン、シフェル、リアムの順で驚かれた。ちなみにオレは「何それ?」と首を傾げて終わる。レイルの言う通り、異世界人には伝わらない話らしい。


 自動翻訳は『支配者の指輪』と告げたが、そもそも支配者って……偉い人的な意味の支配者か? だったらオレじゃなくて、皇帝陛下であるリアムの指に相応しいだろう。


「リアムにあげるよ」


「……譲渡できるなら、いいんじゃないか?」


 意味深なフラグを立てるなっての、レイル。むすっと口を尖らせながら手を指輪に乗せて引く。動かないので、今度はぐりぐり回してみる。動いたから引っ張る……動かない。


 数回全力で繰り返して肩で息をしていると、後ろからブラウとヒジリが覗き込んでいた。魔力のお漏らしを舐めるのは終わったようだ。


「あ、ちょうどよかった。ヒジリ、これ外せるか?」


『無理だ』


 いきなり否定から入る会話は嫌われちゃうぞ。心の中で茶化しながら、ヒジリの前に手を差し出す。めちゃくちゃ痛いし、嫌だけど。


「噛んだら取れない?」


 何をと問うなかれ。指を噛んだら、指輪が取れるだろ。その直後にヒジリが治癒してくれたら、指は治る!


 賢いじゃん! オレだってただ黙って噛まれるだけじゃないんだぜ!?

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