194.ドラゴン襲撃(3)

「契約した後は魔力を食べ放題とか……ないよな?」


 魔力をコントロールするアクセサリーを着けていないのに、魔力制御が出来ると思っていた。あれは逆だ。制御するほど魔力が残されていなかった。契約した聖獣に魔力を喰われたのだ。


 唸りながら考え込むオレの肩を、ジャックが叩く。手を払いながら「今忙しい」と答えたオレに、もう一度ジャックが手を伸ばした。珍しいと思いながら顔を上げると、飛んでくる8匹のドラゴンが視界に入った。


 ぐぎゃあああ!! 怨嗟に満ちたその鳴き声に、顔が引きつった。さっきの倍かよ、おい。なんでオレばっか狙うかな~。前方にも無力な人間がいるだろうに……。南の兵士も傭兵達も襲わないドラゴンを捕まえても、魔獣と話は通じない。がくりと肩を落とした。


『ご主人様! 獲物です』


 得意げに空を駆けるマロンは、逃げた1匹を追い回して奴らの巣を突き、敵を増やして帰ってきたって展開か。足元でじたばた足掻く3匹のドラゴンを睨みつけた。こいつらが呼んだのか? マロンが連れ帰ったのかも。


「……誰か、聖獣との契約解除の方法教えてくれよ」


 この阿呆な金馬を解除して、ついでに青猫も放り出してやる。八つ当たり気味に唸りながら、オレは手元に大量の矢を作り出した。鏃まで再現した氷の矢を、操った風に乗せる。弓なんて必要なかった。加速させることも向きを変えることも自由自在だ。


 矢が真っすぐに飛ぶのは弓を使うからで、オレの操る風による発射方法ならUターンだろうが、静止した状態からの再攻撃も可能だった。


 空中で喚き散らしながら飛ぶ矢に「追尾」を命じて魔法で操る。こういう時呪文が必要ないのは助かる。考えた通りに矢を操るオレは夢中になり、後ろから忍び寄る影に……気づくのが遅れた。


「よし、動くな」


 首筋に当てられた刃がひやりと冷たい感触を伝える。びくりと肩が動いたのは、予想外の場所に冷たいものが触れたからだ。


「ボス!?」


「やっぱり敵か」


「よりによってキヨを人質にするとは……」


 様々な声が上がる現場だが、傭兵達に緊迫感はない。それどころか「やめとけ」「無駄だ」と忠告まで飛んでいた。オレの結界の威力を知ってれば、当然の反応だ。しかし付き合いの短い彼はこの反応が理解できない。


 木の上から狙うライアンの銃口がオレに向いてるのは、跳弾狙いか? 後ろの男を直接狙え、跳弾するとしてもオレが怖いだろ。


「リシャール? 何馬鹿なことしてるんだ」


 声でわかる相手の名を呼び、オレはゆっくり振り返った。

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