259.鼻血は正常な反応です(2)
「銀くん、こっちをむけ。鼻に詰め物を」
「いや、鼻のここを摘むと聞いたぞ」
「え? 上向いて首の後ろ叩くんじゃない?」
「それは危険だから」
云々、日本人の家庭の医学みたいな知識が次々と出てくる。あっという間にオレは鼻に詰め物をされた上、鼻の上部を摘まれて横向きに転がされた。
「リ゛ア゛……ぁ゛」
情けない。こんなオレを見ないでくれと思った気持ちを、彼女は笑顔で叩き潰した。
「安心しろ、私が膝を貸してやる」
お礼を濁音付きで口にしたものの、彼女の柔らかな膝の感触と下から見上げるやや膨らんだ胸元が気になってだね……熱が出そうなんですが? 鼻血も止まる気がしないんですけど。
オレが失血死したら、ヒジリに回復してもらおう。ぼんやりと膝に頭を預けるオレの上に、獣の影がかかった。遅いぞ、ヒジリ。手を伸ばすと、黒豹はオレの口にべろっと舌を入れた。
今日ばっかは拒む気にならん。鼻の粘膜が傷ついてるわけだから、治癒で治るわけだ。あれ? そういえば、愛梨ちゃんが治癒できなかったっけ? トミ婆さんの腰痛治療してたよな。
べろべろと口中舐め回されてから、ぷはっと解放された。今頃気づいても遅いが……ちらっとリアムの反応を窺うと、彼女は目を輝かせていた。
「凄いな、やっぱり黒の聖獣殿の治癒は完璧だ」
鼻血は止まったよ? でもさ、婚約者となる恋人が獣に唇を奪われてる状況は、こう……いろいろと感じて欲しかった。抗議してくれてもいいんじゃないか?
「皇帝陛下、嫉妬はないのですか?」
「嫉妬? 誰にだ?」
尋ねてくれた愛梨ちゃんが、気の毒そうな眼差しを向ける。それは貴や海斗も同じだった。裏の読めない笑顔のトミ婆さんはともかく、華麗にスルーしたタカミヤ爺さん。ベルナルドは寝たフリしてるし。
嫉妬はして欲しかった。顔を覆ってしくしく泣くオレの姿に、リアムも何か感じたらしい。上に覆い被さってくれた。柔らかな何かがオレの手の甲に当たってるんですが……これはあの、リアムのお胸様で合ってますか?
「嫉妬はないが、セイは私のものだ」
「うん」
感極まりすぎて、まともな返事ができない。ついでに手を動かせないので、声はくぐもっていた。ここで手を動かしたら痴漢だぞ。クリスティーンも今は静観してるが、殺される案件だからな。自分に言い聞かせ、必死で理性を保った。
あ、ダメ。また鼻血でそう。
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