251.唐揚げしたら手も素揚げ(2)

「ありがと、スノー。マロンは悪いけどヒジリ達を呼んできて」


 戻らない黒豹と赤龍の迎えを頼む。わたわたしながらマロンが馬姿になり、全力で空を駆けて上がった。声をかける間もなく消える。


「……なあ、影に入ったらすぐだよな?」


 オレの認識が間違ってる? 首を傾げると、氷漬けの左手の上に立ったスノーもキョトンとしていた。


『慌て過ぎたんでしょう、すぐ気付きます』


 あまり気にしないみたい。まあ空を駆けてったから、距離は短いと思うけど。


 振り返って、なぜか軍服じゃないクリスティーンに今さら気づいた。氷漬けの手で指さそうとして、重さに諦める。スノー、氷でかすぎ。まあ火傷って冷やして乾かさなければ、痛みはある程度我慢できる。


「あのさ、クリスは公務? 私用?」


「公務だが、お忍びの付き添いだ」


 尋ねたオレの意図に合う答えが返ってきた。つまり、中央の宮殿は現在危険なのだ。性別がバレたかどうかは別として、リアムを襲おうとする連中がいるってこと。しかもそれなりに地位のある連中だろう。


 地位が低ければ、ウルスラが宰相の権限で片付けられる。その範疇からはみ出す奴らが、リアムの子供を自分の孫にしようとしてるんだ。ラノベでよく読んだ展開、そのものじゃん。


 うわぁ……顔を顰めたことで、クリスティーンが苦笑いした。リアムも事情を察していたようで、小声で呟いた。


「最近、服が盗まれた」


 ん……まさか下着? それとも夜着? どっちにしてもリアムの素肌に触れた布だろ! 匂いを嗅ぐのか、それとも頬擦りするのか。オレだってどっちも我慢してるってのに……許さんぞ。


「許せないな」


 漏れたのはオレの長い本音の最後の単語のみ。ゆえに、誰もオレのダダ漏れの怒りの真相を知らない。リアムに知られたら恥ずか死ぬから、これは永遠に秘密で構わない。


「服を盗んで何かわかるの?」


「「さあ?」」


 リアムもクリスティーンも首を傾げる。どうやらこの辺はよくわからないみたい。ただ魔術師に相談するわけにもいかず、最終的にリアムを逃すという物理に訴えたようだ。


「皇帝が宮殿にいない理由を何にしたの?」


「休暇」


「療養」


 似て非なる答えが彼女達の口から飛び出す。おそらく、ウルスラが考えた建前は療養だ。領土が増えたことで書類の処理が続いた皇帝陛下に、空気の良い場所で療養していただく――外聞もいい。リアムは休暇と認識したわけか。

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