304.奇跡のマヨネーズ(2)

 先程預けた女の子と一緒に、じいやがマヨネーズを作ろうとする……が、量がおかしい。


「じいや、もっと鍋で作らないと足りないぞ」


 200人分のカレーがあるんだから、それに匹敵する量のマヨネーズが必要なはず。それを察しないじいやではない。怪訝そうに声をかけたオレに、じいやは頷いた。分かっております、という感じ。


「攪拌する必要がございますので、このサイズで複数回作ろうと考えておりました」


「あ、うん……複数回っつうか、数十回になりそうだから、攪拌は……ブラウに任せるんで、計量だけよろしく」


『また僕ぅ? なんか働くのは負けって感じがするの』


 転がりながら拒否の言葉を匂わせる青猫の腹を踏みながら、笑顔で「じゃあ、カレー没収で」と告げたら、慌てて飛び起きた。ぺろぺろと前足を舐めて顔を洗い、やる気をアピールする。


『作らないなんて言わないよ、主と契約した聖獣だからね』


 だったら文句を言うな。見ろ、隣のヒジリなんて手伝おうとしてソワソワしてるぞ。


『攪拌する容器が欲しいんだよ、自動で混ぜる感じで、こんなの』


 ガリガリと絵を描いてみせる。残念画伯だが、なんとか伝わったらしい。


『主殿、マロンを借り受けるぞ』


「いいよ」


『僕、スパイスで忙しいです。終わってからでいいですか』


 マロンは手一杯だった。こんなに頼りにされたのは初めてと笑っている。マロンは癒し要員決定だな。


「自動攪拌機ができるまでの間、力技で行くぞ」


 オレのビニール袋の中で、ブラウが混ぜる。いや待てよ? ビニール袋が切れると危険だな。白いアレが人々の上に飛び散ったら、ちょっとした惨事だ。リアムの上に掛かったら、前屈みになるかもしれん。だが傭兵のおっさんで想像した途端に、げっと青ざめた。


 下品な妄想はやめよう。ビニール袋を閉じた状態で、前後左右に振ったらどうだ? 中が密閉されてると混ざらないけど、風船状態なら可能だったはず。


 小学生の時の理科の実験を思い浮かべ、じいやが計量……と呼べるかどうか。瓶単位で並ぶ材料に顔が引き攣った。酢が入った瓶、油の入った瓶、山積みで割る途中の卵達。ゾッとするほどの量が割られていく。


 じいやがケーキ屋のように片手割りする横で、潰したり割り損ねて顔を顰める少女がいた。見かねたノアやサシャが手伝いに入り、何とか順調に卵割り作業が進む。まとめてビニール袋に入れて、一気にシェイクした。というわけで、ここから先はヒジリに任せる。出番がなくなった青猫が、口を開いて唖然としていた。


「ブラウ、仕事無くなった」


『僕が役立たずみたいに言わないでっ!』


「今日、何か役に立ったの?」


『うわぁああああ! 主のバカァ』


 泣き真似を始めるブラウに、マロンがおろおろする。優しい奴だ。


「ブラウにも仕事があるっちゃ、あるんだが」


『仕事したらカレー飲ませてくれるの?』


「もちろんだとも。あのマヨネーズをサラダに和えてくれ」


 風魔法なら簡単だろう。オレのビニール袋魔法も散々近くで見てきたし。そう告げると大喜びで走って行こうとして、ふと真顔で振り返った。


『マヨネーズ、カレーにかけていい?』


 目から鱗、そういやマヨラーは食べ物なら何でも掛けるんだっけ? 意外と合うかも……でも異世界に伝えていい料理じゃない気がする。じいやが「おやめなさい」と首を横に振った。リアムが真似する可能性もあるので、先にマヨネーズを入れて上からカレーを掛けるならと条件付きで許可する。


 未来のこの世界で、異世界人が伝えた料理としてカレーにマヨネーズかけたご飯が出てきた場合、絶対にオレが疑われそうだから。ここはブラウ限定にしよう。そういやアイツ、そんな知識どこで……何かのアニメだろうな、うん。

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