307.北の国から王家御一行様(2)
ぐらぐらと地面が揺れる。げろっと吐いた瞬間、じいやがさっとオレを抱えた。
「キヨ様、お召し物が汚れたら困りますので、こちらを」
差し出された二重紙袋、これはキタロウ袋じゃないか! 学校の行事でバスに乗るとき必ず常備された袋だ。実際は中にビニール袋が入ってたりするが、この世界にビニールないんだよ。
一回吐いたらスッキリしたので、口を濯いで一息ついた。ヒジリがゲロを埋めてくれる。なんて気の利く奴だ。その脇で復活したブラウが臭って、くわっと口や目を開いた。フレーメン現象ネタ、もう飽きた。突っ込まずにスルーだ。恨めしそうな目をするな。
「魔力酔いか、久しぶりだな」
苦笑いしたレイルが指先であれこれ触った後、金鎖を外してくれた。これが一番魔力を封じているらしい。皇帝陛下への害意がないことを示すための鎖なので、気分が落ち着いたらまた装着予定だ。
「転移って意外と魔力使うのか」
今までひょいひょい使ってきたが、まったく意識していなかった。考えてみたら、普通は両側に同じ魔法陣を置いて数人掛りで魔力を流すんだ。オレが単独で数十人を連れて移動するのはおかしいんだろう。
北の王家御一行様は、当然ながら大騒ぎだった。レイルを除いた3人の顔色はオレ以上に青ざめている。手を振って無事だと伝えたものの、まだダメらしい。ここは子どもの外見を最大限に活かすか。
「じいや」
頷きあい、オレはまずシンに抱き着く。強く抱き締め返す義兄の背中を叩いてから、手を伸ばしてヴィオラの手の甲にキスをしたら抱き上げられた。王女様なのに逞しいな、おい。
最後に国王陛下に横抱きされたオレの目は、遠くを見ていた。顔がチベットスナギツネになってたのは仕方ない。そう、仕方ないのだが……唯一抱っこしていないとシンがごねた。横抱きからの縦抱きへ移動。オレの足は地についていないが、これでいいのか。
ぽんぽんと叩いて降ろしてもらい、ほっと息をはく。振り返ると……傭兵集団がにやにやしながらオレを指さすし、目を逸らした先でシフェルが笑っていた。くそっ、ほぼ全員にバレたじゃねえか。
着替えのため、リアムがいなかったのが救いだ。
「準備できたの?」
「王族、それも皇帝陛下の婚約者のご家族とあれば、客間を用意してお迎えするのが礼儀です。どうぞこちらへ」
シフェルは義家族に優雅に一礼し、シン達もそれに続いた。この時点でオレも一緒なのだが、ヒジリがどうしてもと騒いでオレを乗せる。服に変な皺寄らないといいが。跨った黒豹の背で揺られながら、宮殿に入る。謁見の大広間の方角へ進んだあと、左に折れてひとつ目の扉を開いた。
通された客間は豪華の一言に尽きる。以前の夜会の控室とは違う装飾品が並び、ぐるりと見回したオレは頷いた。どうやら部屋の格が上がったらしい。リアムの部屋にあった絵画と同じ画家の絵が飾られていた。じっくり眺め、サインも確認する。皇帝陛下の私室の絵と同じ画家、それは賓客扱いって意味だろ。
お茶が用意され、ヴィオラやシンがあれこれ話し始めるのを聞く。スノーは膝で丸くなり、マロンはお行儀良く隣に座った。つうか、いつの間に着替えた? オレが以前に着せられた七五三風の謁見服が、そのままお下がりになってる。サイズが調整されてるのは、女中さんの早技か。
『ご主人様、お嫁に行くの?』
マロンの悲しそうな声に、オレは飲みかけのお茶を盛大に吹いた。向かいでレイルが飛んで逃げ、青が強い紺色の絹に散ったお茶を拭く。ヴィオラとシンは、服に刷り込まない! 変態か。
こら、残ったお茶を飲もうとするんじゃない、この変態国王陛下。じいやがさりげなく取り上げて片付けてくれて助かった。
「お嫁じゃない、お婿だ」
首を傾げるマロンは違いを理解していないようだ。汚れた机を掃除するじいやが、孫に近いマロンに説明を始めた。任せる。
ノックの音に全員の表情が引き締まった。ようやく婚約式だ!
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【やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?】
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
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