16.食事をしたらお勉強(8)
感情に任せて『怒られる』なら反発するのが当然だ。だけど、オレの将来を案じて『叱って』くれるなら素直に受け入れるべきだろう。
そういや、前世界で親が最後に叱ってくれたのは……いつだった? 少なくとも引き篭りかけた頃は叱ってくれた。何とか外へ出るよう促して、一生懸命手を尽くしてくれたじゃないか。それを無視して、好き勝手した結果が『引き篭もり一歩手前のサバゲーオタク』だ。
もし引き篭もりかけの頃に、こうして諭してくれる人がいたら…オレは親を失望させなくて済んだかも知れない。逆に、諭す人すら失望させた可能性もある。
「……ごめん」
なんと言えばいいのか分からなくなって、口をついたのは謝罪だった。さきほどシフェルに向けた「ただの仕返し」なんて発言は、明らかに謝るべき言葉だったと思うから。
「まあ、俺から見ても焦り過ぎだとは思うが」
「え?」
「ここまで厳しくするとは聞いてないし、そもそも午前中の授業で寝込まれたら、午後は使い物にならないではないか」
「ソウデスネ」
何故だろう。リアムの言葉に震えが止まらない。
お前がやりすぎたから、俺の番まで
「では、最初の仕事だ。お前の部下を止めて来い」
「部下…? 仕事……?」
熱で頭が働かないんだから、もう少し噛み砕いてください。派手に首を傾げて待つ。後ろで括った金髪がさらさらと流れた。
「ジャック、ノア、サシャ、ライアン。すべて一流の傭兵だ。お前の予算で雇ったから、お前の部下になった。彼らがシフェルに仕掛ける前に止めて来い」
しっかり逃げ道を塞いで言い聞かされ、ぱちくりと大きく目を瞬いた。目の前の黒髪美人は楽しそうに笑うだけだ。ひらひら手を振られて、ようやく内容を噛み砕いて飲み込んだ。
「うそ……痛ぃ」
飛び起きるが、頭痛と背中の引きつる痛みに呻く。再び身を起こして、抱いていた氷を放りだした。ソファから立ち上がると少しふらつくが、歩けないわけじゃない。
「行って来る」
「ああ、終わったら俺の部屋に来い」
「りょーかい!」
敬礼して部屋を出た。魔力を感知するのって、どうやったっけ? まだ教わっていないが、早朝の訓練と言う名の襲撃では感じ取れていた。確か気持ちを落ち着かせて、目を閉じて探す感じ……。
いた!! ジャックの魔力か気配を感じて走り出す。ふらついても急がないと危ない、と思えばあまり気持ち悪さも苦にならなかった。
音を立てて慌しく出て行った友人を見送ったリアムは、難しい顔をして呟く。
「了解、か。まず言葉から教えなければ」
シフェルだけではない鬼教官が誕生した瞬間だった。
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