138.やっと夜会にたどり着いた(2)

「頼む」


 短いやり取りで契約終了。レイルの情報は信用できるからな。金はちゃんと払うぞ。法外に吹っ掛けそうな奴だけど、今は身内価格を適用してもらおう。出世払い契約もあるから、遠慮なくこき使う気だった。


「私はおまえが心配だ。外へ出ないように……」


「いやいやいや、大丈夫。全然平気、ほら聖獣も護ってくれるから」


 最強の盾であるヒジリを目の前に突き出し、オレはヤンデレ兄の束縛を回避すべく必死に戦う。最後まで聞いたら閉じ込められそうだ。


「シン、嫌われるぞ。おまえの愛情は重すぎる」


 レイルに諭され、オレに拒否られ、しょんぼりとシンが肩を落とした。哀れだが同情したら監禁生活まっしぐらなので、にっこり笑って話を逸らす。


「お兄ちゃんが隣にいると心強いけど、夜会では少し距離を置いてね。オレは罠を仕掛けてる最中だから」


 ここはしっかり念押ししておく。ヤンデレ発揮して邪魔されたら、リアムの敵を炙り出す作戦が台無しだった。王族であるシンも、そこは流石に理解したらしい。素直に頷いてくれた。


「キヨの髪を整えさせて欲しい」


 シフェルに順番を変更するよう、シンが希望を口にした。了承したシフェルが部屋を出る。王族の身支度だからか? 今更の仲だが、公的な立場もあるから肩を竦めて見送った。


 勧められた椅子に座るオレの後ろに回り込み、シンは器用に髪を弄り始めた。自分が長いから慣れているのだろう。無言で髪を梳かして結う手が、途中で止まった。


「キヨ、危険なのではないか? 今回は見送って」


「やだ。リアムの敵はオレの敵だ。それに……毒殺されかけた後に狙撃までするほど、奴らは焦ってる。チャンスだぞ」


 にやっと笑うが、後ろのシンには見えなかった。だが茶化した口調と真剣な声色に肩を竦めて、緩く上げた髪を絡めた。そこでレイルが簪を差し出す。


「キヨはおまえに守られる奴じゃない。扱い方を間違えるなよ」


 警告めいた言葉を残し、レイルは鏡の前で身嗜みチェックを始めた。赤い短髪に、何かを絡めて固定する。宝石が揺れる鎖のようだった。


 簪に絡めて、同じような鎖を付けられる。首をかしげると、しゃらんと耳に心地よい音がした。


「これは王族の身分を示す飾りだから、必要になったら外しなさい」


 立場を尊重する発言に、くるっと向きを変えて頷いた。にっこり笑うと、嬉しそうに頬を撫でられる。


 こういう関係の兄弟を希望します。眼差しで伝えながら、鼻をすり寄せるヒジリの顎を擽った。


「ブラウ、コウコとスノーを頼む」


『ふん……任された』


 にやっと笑って影に潜って行く。見送って立ち上がったオレに、ヒジリが上に乗れと促した。

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