138.やっと夜会にたどり着いた(3)
「でもヒジリがいると、奴ら手出しして来ないんじゃない?」
『主殿は毒で殺されかけた、そうであろう?』
毒で殺されかけた話も上手に利用して、夜会の武器にすればいい。分かりやすい手法だが、これもひとつの戦い方だった。ヒジリの悪い笑みを、喉を擽って崩す。聖獣である彼らは死なないと聞いた。ならば主人と決めた人が死ぬのは恐いだろう。彼らが得た恐怖も、しっかり返してやるのがオレの役目だ。
「なるほど、そういう設定ね」
理解したと頷いて、しゃらりと鳴る飾りの先を指で摘む。肩に届くほど長い装飾の鎖は、先端に青紫の石が飾られていた。
「これ、宝石?」
「おまえのピアスと同じだ」
魔力を封じたり制御したりする宝石類らしい。この世界で大量のアクセサリー付けてるやつは、ほとんどが魔力豊富な属性だった。赤瞳の竜という最高位の魔力量をもつらしいオレは、ピアスだけで10個以上あるし、ネックレスと簪、公式の場では大量の髪飾りや指輪までつけられる始末だ。
暴走の危険を考えてるのがひとつ、オレが要注意人物だと周囲に知らしめるのがひとつ。皇帝の庇護対象であると示すことも含まれるだろう。何しろ、着けたアクセサリーのほとんどがリアムのプレゼントだった。
レイルが収納から取り出した指輪を、右手の中指に差し込んだ。サイズは自動調整されて、ぴたりと指に収まる。赤い宝石はカボションカットになっていた。いわゆる半月形の丸いやつ、埋め込まれて爪がない。つるんとした石が金の地金から浮き出したようなデザインだった。
「なにこれ、レイルから指輪貰うような関係じゃないんだけど」
「面白いから着けておけ。気づく奴が居たら凄いぞ」
何やら曰く付きらしい。嫌そうな顔をしたシンが、整えた髪を一房崩して流した。白金の髪が右側に垂れて、視界に入る。
「これでいい」
完成だと言われ、ヒジリの上に跨った。最終点検をしてくれたレイルが満足そうに頷く。ちょうどこの場で、近衛兵が呼びに来た。公爵家のシフェルは先に入場したはずだ。中で彼のフォローは期待できない。ならばもうひとつ隠し玉を用意しておこう。
「レイル、頼みがある……シンは怒らないで我慢して欲しい」
お兄ちゃんの呼び名を封印したオレの険しい表情に、シンは少しだけ悲しそうな顔をした。肩に手を置いて見つめたあと、諦めたように頷く。レイルは事情を理解しているらしく、隠し持つ銃を再び握っていた。
「そこまで必要かね~」
行儀悪く煙草を咥えるレイルが、嫌そうに顔をしかめる。薄情そうな物言いや行動が多いけど、身内に甘いのがレイルだ。懐に一度入り込めば、簡単に切り捨てられない。だから嫌がるのは想定済みだった。
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