213.事情を説明しろっての(3)

 出会った時に守護する国を離れていた聖獣は、ヒジリ、マロン、スノーだ。砦が本来中央のものだと考えれば、地下にいるマロンはおかしかった。あれじゃ閉じ込めたみたいだ。スノーのように不可抗力ではなく、ヒジリみたいに自分から移動したわけでもなさそう。


「前の主人の命令で、コウコを操ったの?」


『……っ、僕は契約しなかった人なので』


 知らないとも、話したくないとも取れる態度だった。スノーは事情を知る第三者で、当事者じゃない。責め立てたら可哀想だ。大丈夫、今度は間違わない。責めていい時と許して緩める時を間違えちゃいけないよな。白い鱗の背中を優しく撫でた。


「いいよ、マロンに聞く」


『主ぃ、捕まえたぁ』


 間延びした声で、ブラウが戻ってきた。巨大化した青猫は、小さなポニーを咥えている。猛獣に捕まった草食獣みたい。


「よくやった、ブラウ」


 褒めて喉をゴロゴロ言わせて、マロンを咥えた口を開かせる。ぼたりと落ちたマロンの背中に、べっとり唾液と血がついていた。おまっ! 傷になるまで噛んだのか。


「ブラウ、やりすぎ」


『えええ? 連れてきたじゃん』


 ぶつぶつ文句を言う青猫だが、さほど怒っていないらしい。毛づくろいを始める自由さは、実家の猫そのものだった。


『ご主人様……僕』


「裏切ったと思ってないから、ちゃんと事情を教えてよ。どうしてコウコを嗾けたの?」


『気付いて、たんですね』


 しょんぼりしたマロンの濡れた背中を、取り出したタオルで拭いてやった。膝から下ろされそうになったスノーは、慌てて腕にしがみつく。そのまま肩に居座るあたり、彼も不安なのだろう。好きにさせた。


 伸ばして座った膝の先に、青猫が腹を乗せて丸まる。重いが我慢だ。毛皮は温かい。のそりとヒジリが背中側から身を寄せた。状況が状況だけど、もふもふ天国? モフれないやつも混じってるが。


「うーん。おかしいなと思ったのは、コウコが誰に操られたか分からないと言った時かな。聖獣ってこの世界で一番強いはずなのに、その赤龍を操れる人はいない。なら同列の聖獣しかいないと思った。でも他の聖獣にそんな能力なかったから」


 マロンが洗脳に近い能力を持っていると知って、すぐにピンときた。コウコが操られたのは、マロンの能力だ。同格の聖獣による固有スキル、油断してれば負けるのも仕方ない。彼女自身も気づいてたんじゃないかな。言わなかっただけで。


「マロンはね、一度コウコに謝るべきだ。そうしたらもうこの話は終わり」


 打ち切ってもいい。別に話したくない過去を掘り起こそうなんて考えない。オレだって過去のあれこれはリアムに隠しておきたいし……誰でもそういう秘密を持つ権利って許されていいはずだ。だが驚いた顔でこちらを見た後、マロンはぽろぽろと大粒の涙を零した。

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