206.作戦会議より夕食優先で(2)
シチュー風にしたいんだが、とろみってどうやって付けるんだ? 首をかしげながら、やっぱり6本脚の蜘蛛から作ったバターを放り込む。カットするの面倒なので、丸ごと塊を溶かした。
「キヨ、少し真面目に話しませんか?」
「真面目だよ。飯の時間が近いんだ。暴動になるぞ」
大きな杓文字でかき回しながら、後ろでそわそわしてる傭兵を顎で示す。ちょうど夕飯時なので、南の民が普通に自宅に帰るのがシュールだ。まあ、食わせてくれと言われても断る事案だが。
王城は被害が出たし、貴族の屋敷も一部壊れた。ドラゴンが攻撃した家もあるが、あいつら空から攻撃したから……高い建物ほど被害が酷いんだ。文字通り、平家や二階家に住む平民は無事だった。落ちた瓦礫で家を失った民は少なく、おかげでご近所さんの助け合いで賄える。
オレは自分達の分だけ心配すれば……って、あれ? もしかして正規兵の分もいるの?
「シフェル達の食事は?」
「ご心配なく。正規兵には雑務班がいますから、今作っています」
なるほど、雑務専門の兵士がついてるのか。戦闘が苦手な運動神経悪い奴を放り込めば、行軍に同行した扱いで給与も出そうだし、いい案だ。うちは傭兵ばかりだから、適用する奴がいないけどね。
「キヨ、小麦粉くれ」
「はいよ」
袋ごと放り投げる。鍋の上をふわりと風で届けた袋が傾き、中身が半分ほど鍋に落ちた。
「ぐあああ! ミスったぞ」
慌てて小麦粉を掬い上げようとしたが、すでにほとんどが沈んでいた。ここから分離する魔法がわからない。小麦粉だけ分離……できる気がしなかった。
しょんぼりしながらかき混ぜる。こうなったらわからなくなるまで混ぜて、食わせてしまおう。シフェルが悪い。話しかけるからだ。八つ当たり気味に睨みつけ、重くなってきた杓文字をぐるぐる回す。
「そんで? 何に関して真面目な話をしたいんだ」
話を元に戻した。この場で話し合いをする気はないが、聞きたい内容の見出しくらい教えてもいいだろう。オレがようやく聞く姿勢になったと判断したシフェルは、端的に纏めてきた。こういうところは頭のいい奴なんだと思う。
「東の国を攻める作戦内容、権利を放棄した南の国の処遇、陛下からのお言付けについてです」
「わかった。じゃあ、お言付けからだな」
一番興味を惹かれた内容を口にすれば、彼はにっこり笑って首を横に振った。
「そうですね、お言付けを最後にしましょう」
くそっ、これだから出来る男は嫌なんだ。
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