206.作戦会議より夕食優先で(3)

『いい話と悪い話がある。どちらから聞きたい? って尋ねて欲しかったんでしょ』


 ニヤニヤするブラウに、追加の野菜を放り投げる。風で受け止めて素早くカットする姿は、なかなか板についてきた。


「ちげぇよ。オレは好物から食べるタイプなの」


「逆だと思っていました」


 意外だと口にするシフェルに、見抜かれたようで悔しい。元が長男だから、実は好物を最後に残して弟妹に取られるタイプだった。せっかく異世界に生まれ変わったなら、と自由に過ごした結果、好物を先に食べない弊害を理解しただけ。


 ゲームと違ってリセットやセーブ出来ない。遠慮が美徳の日本人気質じゃ、生き残れなかった。図々しいと言われるくらい我が侭を振りかざして、こうして今があるんだ。遠慮なんて役に立たない。


「昔は逆だった」


 笑いながら付け加えれば、複雑そうな溜め息を吐かれた。後ろから抱き寄せられ、杓文字を離す。料理はすぐにサシャがフォローに入ってくれたので、そのまま大人しく拉致される。この気配はベルナルドだな。


 顔を確認するまでもなく、頭や耳にふさふさの髭が触れる。大切そうにオレを抱き抱える手にシワと剣胼胝があって、ごつごつと大きかった。子供体温のオレに比べて、少し冷たい。


「ベルナルド、来てたんだ」


「我が君が用事を言付けて消えましたからな。メッツァラ公爵閣下にお願いしました」


 お願いしちゃったんだ。何か法外な要求されないといいけど。そんな視線を向けると「心外ですね」とシフェルは眉を寄せた。ラスカートン前侯爵のベルナルドだが、未だに実権を握っているお爺ちゃんだ。そんな人に要求しないシフェルなんて……はっ、もしかして。


「何か具合悪いのか?」


「失礼ですよ、キヨ」


 ぽかっと頭を軽く叩かれ、舌を出して誤魔化した。それから椅子に腰掛けたベルナルドの膝に座り、腹の上に腕を組んで拘束された状態で首をかしげる。


「なあ、オレは捕まってない?」


「きちんとお話しするまで、こうして捕まえるのが連れてくる条件でしたので」


 言外にベルナルドは離してくれないと匂わされた。すでに手が回っている。無理やり解くのも簡単だけど、相手がお爺ちゃんだから無理したら腕が取れそう。いや、ごつい戦士系だけどね。聖獣と契約してるオレのバカ力は、赤瞳の竜をのぞいてもやばいと思う。


「申し訳ございませぬ、我が君キヨヒト様。お詫びは後で如何様にも」


「気にしないで」


 ぽんぽんと腹を拘束する人間ベルトを叩く。ガッチリホールドの優れものですよ、これ。膝の上に座ったまま、正面からシフェルと向き合った。きちんと話すればいいだけのこと。


「一口で言えば……南の国に関してオレの要望はひとつ。国境が変更されるような併合はしないでくれ。あと東の国も同じね。攻める作戦は今レイルに頼んでる。欲しい人間がいるんだってさ、代わりにオレが東の国を陥落させる――取引だよ」

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