18.裏切りか、策略か(14)

 漏れた声は小さくて、きっと聞こえなかっただろう。ベッドの上に降って来た黒い人影が、1m近くある剣を突き立てていた。ベッドの下のマットレスまで抜ける勢いだ。後を追って落ちた天井板は割れて粉々になった。


 飛んできた破片が降り注ぐ。結構派手に飛び散ったため、音も大きかっただろう。


 すると当然、こうなる。


「何事だ!」


 威勢のいい声と同時に扉が開かれ、ベッドの陰に転がり落ちたオレに気付かない兵が「貴様っ!」と叫んで走り出す。といっても狭い6畳間だ。2、3歩でベッドの脇に到達して、そのまま構えた銃を向けた。深く刺さった剣を諦めた黒い奴が別の短剣を抜く。


 短剣と銃なら銃が強い。そう思ったオレの予想を裏切り、短剣は銃身を切り裂いた。すぱんと切られて落ちた金属は、鋭い断面を見せて床に転がる。


「っ、ばかな」


「うそぉ!」


 兵に被ってオレまで叫んでいた。すると、オレを見失っていたらしい黒い奴に睨まれる。


 叫ばなきゃよかった……反省する前に左側へ転がる。右は壁だし、後ろは窓だった。転がった先で、ベッドの柱がすぱっと切られる。あまりの切れ味に、自分の首が飛ぶ姿まで想像できてしまった。


 応援の兵が駆けつけても、たぶんこの黒い奴が一番強い。冷静に判断する反面、内心はめっちゃ焦っていた。どうしよう、強い暗殺者の対策って習ったっけ? 焦り過ぎて、口元が歪んで笑みのようになった。


 余裕の笑み――に見えるビビリの引きつり――と冷静な対応が予想外だったらしい。暗殺者は一瞬迷った。振り翳しかけて止まった短剣ではなく、黒い奴の目を睨んだまま……オレはダイブした。


 この部屋は3階だ。このまま狭い部屋にいるより、外へ飛び出した方が生き残れる確立は高い。


 ガシャン!! 


 派手な音でガラスが割れた。落ちながら、魔法が使えないことに気付く。


 飛び出す前に気づけ、オレ! 手首に巻いた紐は魔力を封じている。仕組みはわからないが、とにかく魔法は使えなかった。つまりこのままだと、地面に激突してザクロだ。


 ザクロ危機、再び!――冗談じゃない。


 くるっと回転して足ではなく身体全体で衝撃を吸収する。息が止まるような痛みはなかったが、やっぱり痛い。右肩から落ちたため、脱臼した。運がいいのか悪いのか、脱臼して手首の角度が変わったために紐が緩む。


「いっつぅ…」


 引き抜こうとしたオレの感覚が危険を叫んだ。咄嗟に転がって顔を上げると、さっきの落下地点に黒尽くめが立っている。全身黒スパッツみたいな? ぴったりした服装だが、頭から布を被っていて顔は見えなかった。布は尻のあたりまである。体型も判別しにくく、隠密行動には最適だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る