18.裏切りか、策略か(15)
しばらく逃げる気はないが、大人しく暗殺されてやるつもりもない。だけど右肩が痛い。とにかく痛い。たぶん過去に骨折した時くらい痛いぞ。
唸りながら男を睨みつけた。短剣片手の男に勝てる自信はある――ケガしてなければ、という注釈つきだ。この肩が動かしたら痛いし、動かなくても痛い。ずきずき鼓動のタイミングで痛むから集中できなくて、魔法も上手に扱える気がしなかった。まあ、紐解かないと使えないんだけど。
「無事か?!」
「…無事に見えるか?」
窓から身を乗り出した兵の呼びかけに、思わず呟いてしまう。短剣片手の黒尽くめ男に追い詰められてるように見えないか? 出来たら助けに来て欲しい。この痛みで戦うとかぞっとするわ。
「今行く!」
オレの気持ちを察したように、若い兵が飛び降りた。魔法を上手に使ってふわりと着地する。オレだって紐さえなければ、脱臼なんてしなかった。羨ましさ半分、応援半分で期待を込めて若い兵を見守る。安心しろ、お前がやられたらオレは紐外して仇を取ってやる。
よく見れば、彼は寝る前に上掛けをかけてくれた優しい兵隊さんではないか。先ほどの言葉は訂正だ。やられそうになったら、助けてやる! とりあえず『若くん』とよくわからないあだ名をつけ、声に出さず応援した。
頑張れ、若くん!
「大人しく投降すれば命は取らない」
儀礼的だがきちんと警告する兵は、構えた銃口を黒男の胸にあわせていた。相手の力量がわからないときは、頭を狙うより胸や腹を狙えと習ったのを思い出す。頭は的として小さい上に動かしやすい部位だ。狙うなら大きな的の方がヒット率が高い。
大人しく紐を解かずに待っているオレを一瞥し、男は兵に向けて両手を挙げた。その手から短剣が落ちる。足元の芝に刺さった短剣を見ながら、きらきらする何かに気付いた。
なんだ、あれ?
「よし、そのままだ」
投降する所作を見せた黒尽くめに緊張を緩めた若くんが近づく。オレの視線はきらきらする糸状の何かを凝視していた。もしかしたら光の関係で、若くんには見えてないのかも知れない。
「危ない! 短剣に糸が…」
男が腕を少し動かした途端、くっきりと糸が浮かび上がった。透明に近いワイヤーのような糸が、短剣の柄に結ばれている。つまり引っ張ったら、糸の先にある短剣は男の手に戻るのだ。
若くんが危ない! 咄嗟に動いていた。
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