169.使えるなら先に言ってよ(3)

「よし、それじゃ作戦変更。まずヒジリはオレを乗せて飛んでもらう。弾はオレが防ぐから、コウコも一緒に行こうか。派手に火を吹いて脅してくれると嬉しい。その間にブラウとスノーが影から侵入して、向こう側を攪乱して。ジークの部隊が攻め込むフリで兵士を引き付ける」


「真似だけか?」


「実際に攻めるとケガ人出るだろ。まだ戦いは序盤だから、ケガ人はゼロの方針で行くよ。ジャック達は裏から回り込んで、どこかの入口を壊して侵入して欲しい。上から指揮するけど、伝達には風を使う。オレが指定した奴以外に聞こえないから、いきなり耳元で声が聞こえても叫ばないこと! 以上」


「「「あいよ」」」


「「わかった」」


 騎士なら敬礼や「かしこまりました」が挨拶だけど、傭兵は承知したことを口々に伝えてくる。この微妙に揃わない感じが、だらだら過ごした高校時代を思い出せて懐かしい。暑い夏の日にだらだらと過ごした午後の体育とか、こんな感じだったな。


 懐かしみながら分担を決める彼らを見守った。ユハは最近、ジークムンドの班に混じっていることが多い。あの班は人数が多いし、まとめ役のジークムンドが受け入れ体質だからな。拾ってきた奴を片っ端から面倒みるのに、見た目が熊みたいで怖がられちゃう不憫な人だ。


 彼らが決める間に、収納から武器を取り出した。レイルにもらった銃はベルトに差し込み、ナイフを足や腰のベルトに隠していく。脱出用の小さなナイフも持ってるけど、聖獣がいるから不要だった。魔力を封じられても、聖獣は呼べるらしいし。


『主、僕……生きて帰れたら、今夜はからあげ食べたい』


「ブラウ、不吉なフラグを立てるな。聖獣は死ねないくせに」


『一度やってみたかったんだけど……ああ、ひどひぃ』


 猫の頬を両側に引っ張ってげらげら笑う。その様子に、周囲の緊張はほぐれていった。こういう空気はよく読むんだよな、青猫って。普段は役に立たないんだけど、道化師的な役割を買って出るところは偉いと思う。


『主人の野菜スープがいいわ』


「スノーやヒジリは?」


『前に食べた酸っぱくて黒い肉が食べたいですぞ』


『私は美味しい果物があればそれで』


 欲があるのか、ないのか。聖獣の希望したメニューは意外と地味だった。唐揚げ、野菜スープ、おそらく黒酢炒め、果物。今は好物になって強請るヒジリだが、最初の頃は顔を顰めて「酸っぱい物は腐敗しておりますぞ」と文句言ってた。黒酢はジークムンドの故郷の調味料だっけ。また補充を頼まないといけないな。


「ボス、準備できたぜ」


「こっちも、いつでもいいぞ」


 ジークムンドとジャックの班が準備完了だ。この2班で砦を落とし、今日は中でゆっくり休むぞ!


「よし! 作戦通りによろしく! 今夜は唐揚げと野菜スープ、黒酢炒めだ! 最後にデザートの果物もつくので、しっかり仕事するように」


「「「「おうっ!!」」」」


 ん? オレの号令がおかしかった気がするけど、こんなもんだよ。もたもたしてると日が暮れる。さっさと敵を砦から追い出すとしましょうか。

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