26.魔法は無効、魔力は有効?(2)
境目がよく分からなかった。確かに発動していた魔法は生活に便利な収納だったり、火をつけたり、水を生み出すものだ。他人を傷つける目的で使った魔法じゃないが、つけた火で火傷することはある。前にポットのお湯を沸かした際に、そのポットに触れた指先に軽い火傷を負ったのだ。
線引きが、なおさら難しくなった気がした。
真剣に考え込むオレの周りで、傭兵達はお茶の支度を始める。どうやら説明は諦めてしまったらしい。そういや、この世界は勉強する奴よりしない奴のが多いんだっけ。
「魔法と魔力の違いなら、余が教えよう」
……なんだろう、この状況は
すごい美人で目の保養ですが、オレの目が悪いんですかねぇ。お付きの騎士が見当たらないし、そもそもマント付きは公的なお仕事用の衣装じゃなかったかな?
もしかして……。
嫌な予感がしたオレの前で、リアムの後ろへ凄い勢いで人が滑り込んだ。走ってきたのだろうが、最後は滑り込みセーフって感じで飛び込んで来たのだから、よほど急いでいたんだろう……ここにいる国王陛下のせいで。
「へ、陛下…っ、いきなり消えては、侍従が……っ」
息を切らせながら必死で注進申し上げる感じの騎士と、平然としているリアムの間に温度差を感じる。それも熱湯と氷くらいの、世界が違うレベルの温度差だ。
「宮からは出ておらぬぞ」
へえ、傭兵の官舎もぎりぎり『宮の敷地内』なんだ。現実逃避を兼ねて微笑みながら聞いていると、息を整えて顔を上げた騎士はオレを指差した。人を指差すのは失礼ですよ。
「彼に用があるなら、呼び出せばよいでしょうに」
「用があるのは余の方だ。余が足を運ぶのが当然であろう」
「皇帝陛下ですよ!!」
確かにオレがいた世界でも、王様ってのは下々の者を呼びつける。自分で出歩いたりしないわ。指差す騎士の失礼さより、納得して感心できる部分の方が大きくて頷いてしまった。見咎めたリアムが表情を厳しくする。
「余は友人に会うのだ。臣下ではない」
「ああ……えっと。その辺で終了してください?」
息を大きく吸い込んだ騎士が何か言う前に、遮ったが……言葉に迷ったせいで疑問系になった。怪訝な顔をする騎士へひらひら手を振って、リアムの前に立つ。不満を示す形で、ちょっとだけ唇が尖っていた。赤く柔らかそうな唇を尖らせて誘うのはやめてください。惑わされちゃいます。
唇をぐいっと指先で押して元に戻し、そのまま手を握ったリアムのご機嫌な様子に苦笑した。ぱくぱくと口を動かすが言葉が見つからない騎士へ、とりあえず向き直る。
「任せてもらえますか」
頷いてくれた騎士にほっとする。掴んだ手を握ったり緩めたりして、なんとか指を絡めようとしているリアムに溜め息が漏れた。しかたないので目を合わせて言い聞かせる。
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