第13章 一戦終わって、また一戦

58.師匠に認められた弟子っぽい(1)

「よう、生き残ったか~」


 聞き覚えのある声と真っ赤な髪、冷たい薄氷色の瞳。薄情で有名な情報屋の登場に、傭兵達がざわめく。オレと仲がいい認識なら、いい加減慣れて欲しいもんだが……。


 なにやらメモを手に歩いてきたレイルが、ぐるりと周囲を見回して数本の線を引いた。気になって覗き込むと、並んでいた名前が閉じる前にちらりと見える。


「名簿?」


「見ちゃったのか。しかたねえな、まあ指揮官だし。見せておくか」


 一度は閉じたくせに、あっさりと彼はメモ帳を見せてくれた。左右にびっしり書かれた名前が線で消されている。ページをめくると見覚えのある名前が並んで、2名に横線が引かれていた。


 今回亡くなった傭兵の名前だ。コリーとネイト……忘れないようにしよう。収納口から取り出したリスト用紙の裏に名前を記して片付けた。それから興味深そうなレイルが、顎に手を当てて見ている。


「なんでメモした?」


「オレが殺した奴を忘れないようにだ」


「敵はいいのか?」


「敵まで責任取れないよ。戦争だもん」


 殺した味方をフォローするのが精一杯だ。残酷な言い方かもしれないけど、戦場にいる奴は命を奪われる覚悟があると思う。オレも含めてだ。


 感情で死にたくないと願っても、理性では殺されても仕方ないと理解してる。そもそも武器を手にして戦ってるんだぞ? 玩具の水鉄砲じゃなくて殺傷能力がある銃、鈍らの金属片でなく刃のついた立派なナイフだった。互いに向けて戦えば、当然どちらか……下手すりゃ両方が死ぬ。


 怖いなら戦場に立たなければいい。もしくは絶対に負けないほど強くなればいいんだ。どんなに強くなっても、流れ弾みたいな不運もあるから生き残れる確証がない。それが戦場だった。


 オレがゲームや映画でしか観たり経験しなかった現場――命をやり取りする本物の戦場で、命が大切なんてキレイゴトが通用するはずもない。それでも振り翳してしまうんだけど……。


 田舎のおばあちゃんの言霊信仰に近いのかな。言葉にして発することで、願いとして叶う気がした。だから生き残って欲しくて「命は大切じゃん」と口癖のように繰り返すのだ。


「それもそうだな。ところで全滅には1人足りないぞ」


「嘘、どれ?」


 レイルが器用にもさらさらと似顔絵めいた顔を描く。出来上がっていく絵に、見覚えがあった。たしか……こいつはガタイがよくて。


 にしても、レイルって絵がうまいな。オレが描いたら、○に人と一がついたレベルで、個人識別できない代物だと思う。よく殺人現場を描く時の人模型になっちゃう自信ありだ。非常口の走る人レベルなら、オレより絵がうまい部類だろう。

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