173.コンプリートしてた(3)

 見た目はイモ虫だけど、味は果物のデザートも増えた。これで食事の支度はばっちりだ! 


 ちなみにこのキベリなる果物は危険な魔物が住む地域に生えるらしく、高級品らしい。傭兵達も名前は知っていたり、収穫に向かう人の護衛で落ちた実をこっそり食べた程度の存在で、スノーのように大量に枝ごと収穫するのは難しいと教えてくれた。聖獣に勝てる魔物はいないだろうからね。


 挨拶の際に背が足りなくて見えないので、いつも椅子に上っていたが、今日はジークムンドの肩車の上から失礼しますよ。ちゃんと靴脱いで登ったら驚かれた。解せぬ、人様を踏むのに靴履くのは外道とS属性だけだから。オレはどう思われてるのやら。


「ジークの肩の上は高いなぁ」


 椅子より見渡す風景が広がるのはいいが、テントの屋根にぶつかるのは厳しい。仕方なくジークムンドの頭を抱き込んでおいた。昔のオレと同じ黒髪に顎を乗せて高さ調整。しがみついたわけじゃないぞ。


「今日はお疲れ様! 結界張るので最低限の見張りを残して、飲酒を許可します! では、いただきます」


 両手を合わせる仕草に慣れた傭兵達は、よそった食事に手を合わせ……勢いよく食べ始めた。オレも降ろしてもらい、ジークムンドの隣の席に落ち着く。珍しくジャック達が離れた場所で食べていた。どうやらお代わりしやすい鍋の近くに陣取ったらしい。


 ノアは単独でオレの隣だ。オカンはこまめにオレの前に零れたスープを拭いたり、パンを取り分けたりと忙しかった。自分も食べないとなくなるぞ? ジークムンド班は、オレの教えたじゃんけんで見張りを決めた。今回チームリーダーのジークムンドは見張りを免れたようだ。酒瓶を取り出して直接煽った。


 見るとコップに注いでる奴より、瓶から直接飲む奴の方が多い。野性味あふれる風景だが、彼らは忙しい戦場での食事しか知らないのだ。すぐ動けるように瓶から飲む習慣がついたんだろう。これは注意するマナーとは違うので、放置した。


 オレが結界張ったら安心してご飯食べて酔っても平気。そう身体が覚えるまで、言ったって理解しないと思う。他人の命令や言葉じゃなくて、心の底から安心して自分で緊張を緩められるようにならなくちゃ。少し頬を赤くしたジークムンドが乱暴にオレの髪を撫でた。


「ボス、聖獣全部集めた奴は初めてじゃないか?! おう! 俺らの最高のボスに盃を上げろ!! 皆、祝い酒だぞ」


 乾杯するように瓶を掲げるジークムンドに、あちこちから瓶やコップが持ち上がった。お祝いの言葉が飛んでくる状況が擽ったい。前の世界で、オレの成果にここまで喜んでくれる友人や家族じゃなかったから……余計に嬉しかった。


 ぐりぐりと少し手荒な撫で方も、不器用だけど優しい。頬を緩めてオレは手元にあったコップの中身を一気に煽った。胃がかっと熱くなる。


「お、おい。それは……竜殺しの酒だぞ」


「りゅーごろひぃ?」


 物騒な名前だな、でも喉が熱くてうまいぞ。ふわふわする……心配そうに水を飲ませようとするノアの手を跳ねのけたところで、オレの記憶が途絶えた。

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