204.腐るのはどちらが早いか(3)

「顔は知らなかったけど、この南の国の王太子ね」


 王太子は次の国王だ。国が残った場合は後継なわけだが……ん? どうしてここで歩き回ってるんだろう。自由に歩かせていいのか。侍従とか護衛はどうした。


 同じ疑問を持ったクリスティーンが、騎士に指示して子供を確保させた。捕獲された獣よろしく、手足をばたつかせて暴れる。しかし騎士は荷物のように小脇に抱え、がっちりホールドだった。明らかに歳の離れた弟がいそうな扱いだ。


「もう聖獣の契約が解除されたから、王族を残す必要はないんだろ?」


 ノア、残酷な指摘をしない。意味は分からなくても不安そうな顔をしてるぞ。小学生低学年くらいかな? 両親はさっき捕まってたが、側近がいないのはおかしい。


 王太子ってことは長男だけど、国王は結構なおっさんだったし……王妃も似たような年齢で……あれ? 気のせいかな。オレの計算違いかも。もしかしたら老けて見える属性だけど、実年齢は若い……なんて。


「この子の親は」


「国王と若い側妃の子だったか。たしか15番目くらいの……」


「なるほど」


 やっぱり、そんな属性はなかったか。


 どうして子供を放り出して母親が消えたのかはさておき、国王のおっさんが頑張った結果の子宝なわけだ。両手を伸ばして抱っこをせがまれるが、脇に抱えられる捕虜だから、我慢しなさい。視線で諭して目を逸らした。


 変な罪悪感あるけど、まあいいや。ヒジリに寄り掛かっていると、ひょいっと背に乗せられた。豹の背中はゴツゴツしてるし、歩くと左右に揺れるのに不思議と落ち着く。これは黒豹だからじゃなく、ヒジリだからだろう。


「この子はどうなるの?」


 この辺の質問は傭兵じゃ答えられない。案の定、ジャックたちはそっぽを向いた。レイルが眉を寄せて言葉を選ぶ。


「よくて幽閉、悪くて処刑」


 選んでも最悪だった。本当? と首をかしげてクリスティーンを見ると、彼女は背を向けていた。騎士達は苦笑いして首を横に振る。これはあれか、聞いてくれるなという意思表示だ。


「王族って贅沢できる代わりに厳しいんだな」


 オレも一応王族の端くれだし、今後は皇族にお婿に行くんだから気をつけないと。実力があるうちはいいが、土の下で腐る可能性がある。こんな子供に求婚されるようじゃ、囚われたら違う意味の腐による身の危険も感じる。この世界で強さは必須条件っぽかった。


 外見を良くしてくれと頼んだ時、カミサマが微妙な反応を見せた理由にようやく納得し、オレはくしゃりと金髪を掻き乱した。

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