158.常識の違いはあちこちに(2)
「オレ、寝室から飛び降りて裸足じゃん」
「なんで寝室で靴脱いだ?」
「履いたまま寝ればいいだろ」
不思議そうにジャックやノアに指摘され、逆に驚いた。そうか、日本人だから靴脱いでたけど……西洋系の文化圏である中央の国は靴履いてる……ん? 寝るときも?
ジャックやベルナルドを含め、全員が靴を履いている。煙草を燻らせながらついてくるレイルは当然だが、マジで履いてないのオレだけか。
「だってベッドで靴履いてるのかよ」
戦場でテントに寝た時は靴脱いでただろ。その指摘に彼らは顔を見合わせ、肩を竦めて「常識ないからな」とハモった。ディスられてるわけじゃないが、ちょっとムッとする。この世界の常識がオレの知る常識じゃないのは仕方ないとして、どこの小姑だと疑うような細かい部分も違うのが苛立つ。
呆れ顔のジークがぼそっと指摘した。
「ベッドの横に置かねぇのか?」
靴を置く場所らしいが、オレは部屋の様子を思い浮かべた。この官舎がまだ臨時宿舎呼ばわりされてた頃、部屋の壁は2日目くらいにぶち抜かれて寒かった。家具は机と椅子、硬いベッドだけ。まるで牢屋のようである。
現在はドラゴン殺しの英雄殿として帰還した上、北の第二王子をお預かり……という名目ができた。追加で皇帝陛下の分家で辺境伯家当主になったこともあり、ベッドに柔らかスプリングマットがつく。それから机と椅子は前と同じシンプルな木製だが、ソファも増えた。ついでに床に敷く絨毯をもらったのだ。
うっとりしながら、リアムに下賜された絨毯の手触りを思いだす。部屋の穴も修繕されたので隙間風もなくなり、快適な私室である。その部屋の入口に専用の箱を用意して靴を入れていた。下駄箱替わりだが、野菜を納品した農家さんの箱をお借りしてる。大きさがぴったりなんだよ。
「部屋の入口だな」
靴の置き場を答えると、ベルナルドが首をかしげた。
「部屋ではスリッパですかな?」
「いや、素足」
「「「はぁ?!」」」
めっちゃ「バカでしょ」という目で見られた。解せぬ。なぜ靴を脱いではならんのだ。部屋の中だぞ? オレの勝手じゃないか。そもそも日本人は靴を脱いで……ああ、この世界が西洋系だからか。くそ、どこかの国で東洋系があれば……。
「柔らかい絨毯もらったんだもん」
口調が幼くなったのは、あまりにも皆が驚いていて……しかも周囲に伝播してるから。さすがに太い神経のオレも傷つくぞ。ペタペタ歩く先で、ひとまず建物に入った。
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