316.利息の方が大量だった(2)
夕食時にまだ膨れっ面のオレに、しょんぼりした2人。一緒に宝物庫へ向かいたいのを我慢して、きちんと仕事を終えた義父は不思議そうに首を傾げた。レイルがあっさり事情をバラしてしまい、現在は膝の上だ。恐れ多くも現役の北の国王陛下のお膝だよ。後ろから抱っこされた腕は、どこの騎士団長かと思うほどがっちり腹に回されていた。
一家で過ごすリビング的な部屋で、豪華な調度品に囲まれ、お洒落なカップに注がれたお茶を前に父親の膝に乗るって……何歳まで許されるんだろうな。まあ、今日のオレに許せないなんて発言したら、軽く吹き飛ばしてやるけどな?
まだ頬を膨らませたリス状態のオレに、せっせと義父ハオが焼き菓子を運ぶ。ちなみに夕飯も途中から膝に乗って食べた。子ども扱いを羨ましがる兄や姉の存在に、つい降りると言い損ねた。存分に羨ましがるといいぞ!! と思ったら、予想外のケンカが勃発した。
「ずるいぞ、父上。俺もキヨを膝に乗せたい!」
「そうよ。私だって窒息するほど抱き締めたいわ」
窒息は勘弁だが、あの豊かな胸はクリスティーンの窒息未遂事件を思い出させるな。じゃなく、え? 羨ましがる方向はそっちなのか? てっきり、父親の膝争奪戦だと思った。愕然とするオレに、爆笑しすぎのレイルは「腹筋が、腹筋がぁ」とひぃひぃ言いながら笑い続けている。その腹筋、あらぬ方角へ割れてしまえ!
「お前達は可愛いキヨを傷つけたのだから、反省しろ」
国王らしい威厳のある声と口調で、ぴしゃりと言い聞かせる。内容が問題だが……そこに目を瞑れば有能な王様に見えた。あれだ、見た目詐欺。
「キヨ、今夜は一緒に寝ようか」
「なっ! 父上、順番を守らないのはどうかと!!」
「いいよ、パパと寝る」
「そう、パパと寝ような」
頬ずりしながら嬉しそうなハオ、悔しさに歯ぎしりするシン。別にいいじゃないか、順番が入れ替わっただけだぞ? 思わぬ騒ぎに、レイルが肩を竦めた。
「傾国の美少年ってか? ったく、悪い奴だな」
「え? オレが悪いの?」
レイルの言い方だと男心を玩ぶ悪女のように……しばらく考えてみる。自分の言動を反芻した後、ちょっと目が細くなった。その後さらに変化し、チベットスナギツネ風になる。そっか、悪女か。性別以外は合ってるな、うん。
『主はぁ、傾国なのぉ?』
間延びした青猫を黒豹が齧って回収する。グッジョブ、さすがは心の友だ! 親指立てて、よくやったと褒めておく。表情はつんと澄ましてるくせに尻尾が本音を示して、めっちゃ揺れてるぞ。マロンが駆け寄って、義父にしがみ付いた。
「僕もご主人様と一緒に寝たいので、ベッドに入れてください」
何この可愛い生き物。オレの顔してるのに、全然あざと可愛い。首をこてんと傾けるのとか、妙に丁寧な口調とか狙ってるだろ。このやろ、可愛すぎなんだよ。伸ばした手で抱き締めた。スノーがそっとマロンの頭に着地し、ちらちらと黒豹が視線を送ってくる。
「パパ、皆も一緒でいい?」
「もちろんだとも。全員乗れる大きさのベッドだぞ」
オレと手を繋いで歩きながら、ハオはご機嫌そのものだった。部屋の扉を開いたところで、くるっと振り返る。期待の眼差しを向けるシンと、面白がるヴィオラに手を振った。
「また明日ね。シン、ヴィオラ」
「「そこはお兄様だろ(お姉様でしょう)?」」
無視して手を繋いだ国王と歩く。反対側の手はマロンが握り、ヒジリが隙間に鼻を突っ込む。なんだなんだ? いきなり全員寂しがり屋になりやがって。国王の私室はやたら立派な扉で、衛兵がきっちり守ってた。部屋の主がいなくても守ってるのか。
ふかふかの絨毯が敷かれた部屋に、でんと大きなベッド! 確かに全員一緒でも寝られそうだ。というか、シンやヴィオラも入れそうだな。寝相の問題はあるけど。
これがまさに――「キングサイズ」。
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