62.圧倒的勝利による弊害(3)
ガチャ! 銃の撃鉄を起こす音がして、叫んだ北兵の頭に銃口が押し付けられる。だよね、そういう扱いされるよ。オレも映画観ながら「殺されるぞ」って思ってたもん。
「二つ名持ちを従えるボスに対して、随分な言い様じゃねえか」
やだ、ジャック…格好いい。某ハリウッド俳優みたいだ。ここはあれだろ、オレも映画の主人公観たく格好いいこと言う場面だよな!
「やめておけ、負け犬の遠吠えに構う暇はない」
あれ? なぜか悪役のセリフっぽくね? 少なくとも正義の味方には聞こえない。何か方向性を間違った気がした。少し離れた場所で腹を抱えて笑うレイルは、あとでとっちめるとして。
「いいのかよ、ボス」
普段はキヨと呼ぶくせに、敵の前だから情報を与えないためにボスと呼ぶんだろう。分かってても擽ったい。こう首の後ろがむずむずする感じだった。不満そうなジャックに、笑顔を向ける。
「いいも悪いも、決めるのはオレじゃない。逆らうなら殺すだけだし、大人しく従うなら本部に引き渡すだけだろ。オレとしては逆らってくれてもいい」
言葉の裏に「面倒だし、そうしたら撃ち殺す理由が出来るのに」と滲ませれば、引きつった顔の北兵達が俯いた。二つ名持ちはみんな「当然だ」と頷いて同意する。
近づいてきたノアが不思議そうに小声で尋ねた。
「なあ、キヨ。面倒なら降伏勧告なんてしなければいいのに」
「そう思うだろ? でもさ、オレが勝手に全滅させたら、外交的に問題が生じるじゃん。やっぱり正規兵相手だと降伏勧告は必須らしいんだよね」
出陣前にしっかり釘を刺されたので、さすがに知らなかったフリは通用しない。まあ、最初の戦闘に関してはコウコもいたし、言い訳はさせてもらうけど。
ひそひそ話が終わったタイミングで、ジークムンドが声をかけてきた。
「ボス、北での戦闘は一段落で帰れるんだろ?」
やだな、そんなフラグみたいなこと……。さすがに2連戦したオレらに、次の戦場へ行けなんて言えないだろう。そんなの過剰労働だ。抗議するぞ。
「さすがに帰れると思うぞ」
温く湿った風の所為で汗が噴き出す。取り出したタオルで無造作に汗を拭い、オレは結んでいた髪を解いた。涼しい風が吹けばいいのに。
「残念だが、キヨは野営の準備が必要だ」
言葉ほど残念そうじゃないレイルが、笑いながら通信用のイヤーカフを指差す。何らかの指示を受け取ったのだろう。さらさらとメモを書いて手渡した。敵兵に内容を報せないためだ。
「ん……本当だ」
さっきのフラグはもう回収かよ。書かれていたメモは『2連勝おめでとう。捕虜は回収部隊をまわすので、あなた方は野営して明日の早朝、東側の平原で行われる戦闘に参加されたし』という無常なものだった。
帰れるのはもう少し先になりそう。勝ち続けた部隊を頼るのはわかるけど、これも一種の試練だろうか。皇帝陛下の隣に並ぶには、もっと功績が必要らしい。大きな溜め息を吐いたオレは暮れ始めた空を見上げた。
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