229.なあ、おい、知ってるか?(2)
「祖父様、こちらがキヨヒト様だ」
「ジャック、その呼び方気持ち悪い」
ここは空気を読んで大人しくしていろと目配せするレイルを無視し、オレは雰囲気ぶち壊しで真正面から突破する。貴族然と対応するつもりは元々ないし、オレは生まれも育ちも庶民だからね。
「うっせ、我慢しろ」
「やだ」
ひそひそとやり合うオレとジャックの親しげな様子に、アーサー爺さんの表情が和らいだ。ほらな? 作戦成功じゃん。畏まったって身についた所作は直らんし、誤魔化して後で突かれるのは面倒臭い。
権力はこちらの方が上で、立場も明らかに上。だったら譲歩する部分を残してやらないと追い詰めすぎだ。
「無礼なクソガキどもで悪いな」
苦笑いしたレイルも、王族らしく振る舞うのを諦めた。この場で一番立場が弱いのは東の国で、北や中央に敵わない。助けてもらう立場の人間にふんぞり返ったって、何もメリットないぞ。
「俺もか!?」
その「無礼なクソガキ」にさり気なく混ぜられたジャックが唸るも、全員が頷いた。ベルナルドも緊張や遠慮が抜けていい感じだ。
「じゃあ話し合いしよっか」
その一言で場がぴりっと締まる。こういう切り替えの速さが好きだぞ。ブラウを放置して座ったのは、ベルナルドの隣だ。逆隣にレイルが陣取る。
シフェルがいれば、ベルナルドは後ろに控えただろう。自分でも護衛だって言い切ってたからね。でも最も口の立つ公爵閣下がお留守とあれば、貴族特有の言い回しの罠から守るのは、護衛で元侯爵のベルナルドが適任だった。
言質取られて嵌めたりしたら、容赦なく潰すぞ。圧力を込めたレイルの黒い王族スマイル、怖い。
足元の影から黒豹ヒジリ、白蜥蜴スノーが出てきた。赤龍コウコはいつの間にか部屋を探索中で、子供姿のマロンもぬいぐるみ馬姿だ。空気を読んで聖獣姿のマロンは後で褒めておこう。それぞれにソファの後ろで寛ぎ始めた。
「大変申し訳ございません。皇族の若様が、これほどお若いと思わず……お詫びいたします」
アーサー爺さんの謝罪に、オレはひらりと手を振った。好感度高いよね、こういう真っ直ぐな謝罪。複雑な言い回しもなしで、見た目子供だから見過ごしちゃったと言ってくれた方がいい。
「いいよ。いつものことだもん」
まず安心させるために、この国の崩壊が一時止まっている状況を説明した。マロンとスノーが同意してくれたから、オレの寿命が尽きるまで崩壊しない。竜属性なので、あと数百年は平気だと思うよ、暗殺されなきゃね。その間に新しい誰かがスノーと契約すればいい。
丁寧に礼を言われ、ジャックの祖父の評価が上がった。この人、子供が交渉相手でも舐めた口きかないし、真っ直ぐ目を見て話してくれる。シャイな元日本人としては、照れてしまうけど。
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