229.なあ、おい、知ってるか?(3)

 死んだ王族を一度甦らせて殺す案は、意外にも支持された。というのも、あまりに恨みを買いすぎて国内から不満の声が上がっているという。もっと苦しめて死なせるべきだったと。


 死んでそこまで言われるって、逆にすごいな。日本人の気質としては、死んだら仏様だから悪口言わないのがマナーで、標準仕様だぞ。まあ、ジャックの弟妹の件だけ聞いても、相当鬼畜だったと思うし……きっと他にもやらかしてたんだろう。


「いいよ、でももう腐ってない?」


「ご安心ください。凍らせておきました」


「お、おう」


 なんで即答。アーサー爺さんのイイ笑顔が、逆に怖い。ジャックが種明かしをしてくれた。


「この領地の半分は永久凍土だ。そこへ転がして置いたんだろう」


「転がして……」


 洞窟に入れると暖かいから、足元に埋めたのかな? 獣に食われてないといいね。手足欠損まで治す気はないぞ。


「じゃあ……さくっと生き返らせちゃおうか」


「頼むわ」


「よろしくお願いします」


 ジャックとアーサーに頷いたところで、ヒジリがのそりと起き上がった。座ったオレの膝に顎を乗せ、立ち上がる邪魔をする。


「ん? ヒジリ、どうした」


『主殿はしばらく動くでない』


 突然の発言に首を傾げたところで、くらりと目眩がした。反射的に額を押さえて目元を覆う。視界を塞いでも気持ち悪さが消えず、膝の上のヒジリの上に倒れ込んだ。


「キヨ?!」


「な、どうした!」


「キヨヒト様!!」


 ジャック、レイル、最後がベルナルド。頭の片隅でそんなことを認識して、オレは意識を失う。だがその直後、ぬるりと唇を割った生臭い塊を、勢いよく噛んだ。


『ぐぎゃっ、何をなさるか!』


 ヒジリの舌だ。くそ……またベロチューされた。涙目で睨みつけるが、目眩は治っていた。わかってる、治癒したんだよな。でもベロチュー以外でも治せるくせに……。


「うっせ、ベロチュー禁止だ」


『横暴だ、我は断固抗議する!』


 ぎゃんぎゃん喚いて喧嘩するオレとヒジリの足元で、青猫が毛繕いしながら口を挟んだ。


『ねえ、知ってる? こういうのを犬も食わないっていうんだよぉ』


 どっかで聞いたような……?? 動きを止めたオレだが、すぐに思い出して突っ込んだ。


「それは夫婦喧嘩だ!」


 オレとヒジリは夫婦じゃない。後ろから肩に飛び乗ったスノーは、くすくす笑いながら首に抱きついた。


『主様はすこし用心を覚えた方がいいと思います』


 マロンはいそいそとソファから膝に乗り上げ、ヒジリの頭を足で押し退けていた。オレの味方はお前だけだ、マロン。ぎゅっと抱きしめると、ぐえぇと苦しそうな声が聞こえた。

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