75.バター醤油味は、世界を救う……かも?(3)

 やっぱりね。思った通りの反応だった。しかしレイルだけが空中を睨んでから「それは南の国の海辺にある料理かもな」と呟く。さすがは情報屋だ。自分が食べたことなくても、情報として記憶していたらしい。


「同じだといいな……オレ、海鮮丼好きだもん」


「ドンとは何だ?」


「今の流れだと、食事の形態や料理名みたいですね」


 ジャックとシフェルの疑問へ、頷いて説明を始めた。


「さっきの刺身を、白米を炊いたご飯の上に乗せるんだよ。炊き立てのご飯食べたい」


「キヨがそこまで切望するなら、きっと美味しいんだろう」


 期待の眼差しを向けるユハへ、にやりと笑ってみせる。生魚に抵抗がなければ、きっと美味しいだろう。でも初めて口にするなら、まず最初に「生臭い」と文句を言われるのは確定だ。お約束すぎて、いっそ食べさせて反応を見るドッキリを仕掛けたいぐらいだ。


「海の生魚が手に入ったら、食べさせてやるよ」


 魚を捌いたことはないが、きっと兎もどきを捌くより抵抗ないと思う。そんなに血は出ないし、おいしい海鮮丼のためなら……いや、まて。南の国で刺身を食べる習慣があるなら、板前さんがいるんじゃないか? 未経験者のオレが捌くより、絶対に美味しく切ってくれる!


 テレビで見たドラマだと、刺身はよく切れる専用の包丁で一息に切らないとダメらしい。修行を10年単位で頑張った職人だと味が違うとか……。


「専門の道具や職人が必要だけどな」


 付け加えられた言葉に、傭兵たちは興味津々だった。あちこち仕事で国を渡り歩く彼らだが、きっと料理はしない。食べ歩きもしないんだろう。だから戦場食しか知らない傭兵は、キヨの大雑把な男料理でも感激してくれるのだ。


 これが前世界でスイーツ女子だったら、今頃ケーキの生クリームやらチョコレートで無双してるんだろうか。オレには焼き菓子が手いっぱいだが、もし手に入るならリアムを喜ばせてやれる。


 うっとり考え事をして両肘をテーブルについたオレの幸せそうな表情に、傭兵たちは盛大に誤解していた。曰く「カイセンドンとやらは、よほど美味しいのだろう」という、めちゃくちゃハードルを上げる系の誤解だ。


『主殿、スープが欲しい』


『僕はバター醤油』


「ヒジリは器もってついてきて。ブラウは仕事しなかったからダメ」


 満足そうに腕に絡まったコウコは何も言わないので、もしかしたら寝てるのか。爬虫類は目を閉じないんだっけ? うろ覚えの知識で鍋の前に移動した。


 最初の鍋は、強面達が底をさらうようにして食べている。隣の鍋はまだ残っていたので、そちらをヒジリの器によそった。ぶんぶん尻尾を振るヒジリが食べる横を、ブラウの青い身体がすり抜けていく。反射的に尻尾を掴んだら、小さくなった猫がいた。


「なんで小さくなったの?」


『僕は別に盗み食いとかしないから』


 口の周りにバターをべったりつけて、お約束の自白をいただきました。

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