120.卑怯でも汚い手でも使うさ(3)
『主殿、夕食を作る時間ぞ』
「おっといけない。帰るぞ、ヒジリ」
ひらりと手を振って、まだ笑いの収まらないシフェルが離れていく。ヒジリの上に乗ったまま、オレは考え事を始めた。
オレが考えている方法は、この世界でも通用する。王侯貴族に関する知識をラノベで得たことは、大きな財産だった。ほとんどが「ざまぁ」系だったが、おかげで貴族がやりそうな意地悪や嫌味も想像できる。かわす方法もあれこれ思い出した。
『あの男は信用に足るのか、主殿』
「うん。すくなくともリアムに関する部分では信用できる。逆に言えば、リアムを守る為にオレは切り捨てられるだろうね」
これは確信があった。シフェルの中に通った芯は『皇帝であるリアムを守る事』に特化している。ならば彼女に危険が及ぶと判断すれば、助けずにオレを突き放すだろう。そのくらいの覚悟は持っているはずだ。そうでなければ、甘すぎてリアムの警護を任せられない。
『それでよいのか?』
心配そうな響きと優しい金瞳に、オレは擽ったい気分でヒジリに抱き着いた。背に乗った状態だから、前に倒れて首に手を回して抱き締める。引き締まったヒジリの身体はがっしりして頼りがいがあった。
「うん、オレよりリアムを優先してくれる奴じゃなきゃ、任せられない」
複雑そうに黙り込んだヒジリの背を撫でて頬ずりした。猫であるブラウほどじゃないが、ヒジリの毛皮も柔らかくて気持ちがいい。
「そもそもオレは、ヒジリ達に守られてるんだから。これ以上頼れる護衛はいないじゃん」
『そ、そうであったな』
細く黒い尻尾が嬉しそうに揺れる。ご機嫌のヒジリの足元からスノーが顔を見せた。続いてコウコやブラウも出てくる。話し合いをしていたので、気を使ってくれたらしい。
「いつも頼りになる
官舎に着くまでの間に勢ぞろいした聖獣達はご機嫌で、用意された食材を手早く調理していく。手伝ってくれる彼らと傭兵の関係も良く、オレは安心して調味係を担当した。
「難しい話をしてきたようだが、相談位のれるぞ」
よそった食事を前にした挨拶を終えたオレに、ノアが心配そうに声をかける。向かいでジークムンドがスープを掻っ込みながら頷いた。ジャックやライアン、サシャも同じように心を向けてくれる。だから本心から笑って言えた。
「うん、困ったらちゃんと頼る。卑怯だって罵られても、オレは生き抜くからね」
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