120.卑怯でも汚い手でも使うさ(2)
この世界に来て執着した相手だ。初めて見惚れた。触れたいと思った人で、でも手が届かないと諦めかけた。
「子供はね、手が届かない月に手を伸ばす存在なんだぞ」
諦めが悪くて、世の中のルールなんて無視できる。そして
「気を付けてくださいね」
「うん。狙撃や襲撃はヒジリ達もいるから。問題があるとすれば、オレの周囲に手を出されることかな」
貴族は
「対策をしたいんだけど、予算をちょっと融通してよ」
遠慮なく巻き込むオレの姿勢に、シフェルの表情が意地悪いものに変わる。日が完全に沈んで、周囲が暗くなった。薄暗い時間帯は物が見えにくい。それでも互いに視線を合わせて、出方を窺う時間が流れた。
「いいでしょう。申請を通せるようウルスラに話をしますから、内容を書いて提出してください」
「うん。ところで、ウルスラと親しいの?」
宰相のローゼンダール女侯爵をファーストネームで呼ぶのは、既婚者としてどうなのよ。クリスに言いつけるぞと匂わせると、彼は簡単そうに教えてくれた。
「彼女は私の
「……貴族の近親婚か」
直接の兄弟や親子での結婚はさすがにないだろうが、希少な竜が生まれればその血を引き継ごうと親族が群がる。脳裏に浮かんだ図式に溜め息を吐いた。
これは……うかうかしていると、オレがもつ竜属性目当てに娘を宛がおうとする貴族が出てきそうだ。夜這いかけられたら、リアムに疑われてしまう。しっかり防衛する魔法を開発しようと心に決めた。
「他に援助が必要ですか?」
「レイルに通行証だして。頼みたいことがあるんだ」
「赤い悪魔ですか? ろくでもない頼み事じゃないでしょうね」
不信感を示すが、シフェルの顔は口調ほど渋くない。つまり表面上の抵抗だから、突破は簡単だった。こう言えばいい。
「オレがろくでもないのに、友達が
くすくす笑い出したシフェルが「そうでした」と同意したことで、レイルの通行証問題は解決だ。ずっとオレを背に乗せていたヒジリが、黒い尻尾をぱしんと揺らした。
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