68.いざ次の戦場へ! 危険だから1人ずつだぞ(2)
「いやいや、何の話だよ」
『主殿は自覚がないのだ。我が説明をしてやろう』
勝手に影から出たり入ったり自由な聖獣が、のそりと出てくる。見事なくらい黒い毛皮を波打たせ、ヒジリはひとつ伸びをした。
『主殿の収納空間に大きさの概念はない。何かのイメージだろうが、物体の一部が飲み込まれれば自動的に回収されるらしいぞ』
観察の結果だと得意げなヒジリに、オレは顔をしかめた。なんか秘密をバラされた気分なんですが? そもそも、こっちの収納魔法を教えてくれた時に「こう……大きな広い場所のイメージで」と漠然とした教え方されたのが原因だと思う。
「普通は全部押し込んで、初めて収納完了だぞ」
サシャが口を挟む。
「非常識や規格外は言われ慣れて、もう気にならなくなったし……いいんじゃないか、オレだけ普通じゃなくても」
他の奴の収納魔法に影響したわけじゃあるまい。切り捨てたオレの首根っこを猫のように掴んだレイルが、真剣な顔で言い聞かせた。
「あのな、お前みたいなガキが大きな力を振り回してるのを知られると、あちこちが動き出して面倒なんだ。誘拐ならまだしも、違いを探るために解剖されたり、奴隷みたいに洗脳されるのは嫌だろうが」
「絶対お断りの案件だね」
過去の異世界人で同じようなことをやらかして、解剖されたり洗脳された奴がいたんだろうか。そんな考えを読み取ったレイルが苦笑いしながら教えてくれた。ついでに首の手も離してくれる。
「異世界人に人権はないと考えられてた数十年前に、洗脳されて酷使された挙句、戦えないくらいボロボロになったら解剖された奴がいた」
「げっ……最悪」
話をしながら手を動かしていたので、ベッドはほとんど片付いた。洗い終えた鍋やら机やら、片っ端から収納口に放り込む。収納空間の口を自由な方角に向けられるため、小さなものを仕舞う際に上向きに口を開けてから落とすという方法が有効だった。
なお、同じ方法を試して成功したのは、ジークムンドただ一人だ。彼の収納口は魔法を覚えた頃から愛用のバッグの口と同調してある。従ってバックを上向きに置いたら、落とした物体が収納できたというオチだが。
「ところで、戦場予定地の東の草原だっけ? どこ」
「東の草原じゃなくて、東の平原だぞ。ここから歩いて2時間か」
「……歩く、の?」
早朝集合って言われてたよな? 命令書らしき書面の集合時間が早朝なら、もう着いてないとマズイ時間帯じゃん。戦に間に合わなくて叱られたのは家康の息子……余計な前世界の日本史が出てくるくらい焦った。
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