275.パパって呼んでごらん(5)
毛氈の下の階段、三段? 四段じゃないと思うが。暗い紺色に影が掛かると、段数がよく分からん。魔力がないから魔力感知で段差測定できないし。適当に足を踏み出したオレは二段目で躓いた。いま、何か踏んだ?
よろめいて手を突こうとしたオレを、ひょいっと抱き上げる。後ろじゃなくて正面から……義理の父親になったばかりの国王陛下だった。嘘、オレ抱き上げられてね?
ジャックやジークムンドのように大柄な義父は、平然とオレを連れて玉座に腰掛けた。いや、おかしいだろ。お姫様抱っこで横抱きだぞ? つい先日まで他人の異世界人で、国に攻め込んだ奴じゃん。何で国王の膝にいるんだろ。
思考が空回りするものの、抱き上げた義父はにこりともしない。厳しい顔をしたまま、オレをじっくりと眺めた。蛇に睨まれたカエル……嫌な表現が浮かぶ。攻撃されても防げるからいいけど。ドキドキしながら待つこと数十秒。ぐっと腕に力が込められた。
放り投げられたら、手をついて後ろに飛べばシンの位置まで戻れる。咄嗟にシミュレーションした。手をつく位置も着地の予定地もしっかり確認したオレは、ぐいっと抱き起こされる。
「パ……」
「ぱ?」
「パパと呼んでごらん?」
「は?!」
いきなりのキャラ崩壊だった。強面の大柄な傭兵みたいな国王が、突然のデレ。それも顔を押し付けて「パパ呼び」を強請る。さすがに状況の理解が追いつかず、助けを求めて手を伸ばしたが、シンは微笑ましそうに頷いた。そうじゃない。
「よくきたっ! 待っていたぞ。首が長くなって、赤の聖獣様のようになってしまうところだ」
じょりじょりと髭がオレの頬に押し付けられ、我に返った。オレ、おっさんに頬擦りされてるよな。ちらっと視線を向けると、レイルによく似た青い瞳だった。目元を和らげて、また頬擦りする。どさくさ紛れにキスもされた気がする。
「擽ったい」
ぐいっと顔を押しのけたオレに、頬を押されながら北の国王はデレデレだった。何この展開、一方的にウェルカム過ぎて怖いんだが。
「父上、ですから言ったでしょう。キヨは可愛いんです」
「カッコいいと言え!!」
ぶっと噴き出したレイルが笑い転げ、じいやはそっと目を逸らした。逃げられずにじたばたするオレの足に、ブラウがじゃれつく。つうか、お前さっきオレが躓く原因になっただろ。足元で変な感触があった! 蹴飛ばされて転がるブラウだが、ふふんと顔を逸らして得意げだ。やっぱりお前が犯人か。
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