141.オレも大概イイ性格だよね(2)

「ブラウ」


『聞こえなぁ~い』


「ヒジリ、いいよ。食べちゃって!」


 ぐわっと黒豹が大きな口を開いた。噛みつく仕草に、ブラウが毛を逆立てて飛び起きる。くつろいでいたクリスティーンの膝から下りて逃げ出した。しかし逃げる先は影の中なので、ヒジリに首を咥えられ戻される。


「ブラウ、気が変わった?」


『変わった! すっごく働きたい!』


 ゴメンなさいポーズで両手を合わせる青猫に満足し、オレが頷くと絨毯の上にぽとりと獲物を落としたヒジリが伏せる。両手で床に青猫を抑えつけた黒豹の鼻先を撫でて褒めた。


「えらいぞ、ヒジリ」


「……セイは笑ってる時の方が怖い」


 ぼそっと呟いたリアムの言葉は笑顔でスルーした。聞こえないフリが大人の対応だろう? さっさと外へ出て敵を排除する必要がある。


「キヨ、これが敵の情報な」


「ありがとう。きちんと礼はするよ」


 オレ用予算とかあったから、そこから捻出してもらおう。床の上で踏みつけられるブラウを回収し、耳元で手順を言い聞かせる。従順に頷くブラウが影に戻っていき、見送ったオレはもらった情報が書かれた書類をテーブル上に並べた。


 記された情報に、リアムが眉を顰める。見覚えのある名前ばかりだった。自国の貴族であり、信頼していたまで言えないが、重鎮として長く帝国の要職に就く一族の家名が並ぶ。向かいから逆さに読んだシフェルは、クリスティーンと顔を見合わせて溜め息をついた。彼らの調査結果と近いのだろう。


「資料の出どころ、どこに?」


 オレはシフェルに話を向ける。ここに書かれた情報の信ぴょう性を疑う余地はない。レイルが組織の名に懸けて出した情報を疑うなら、頼まなければいいのだ。全面的に信じられる情報として話を進めた。


 並んだ家名に程度の差はあれ、皇帝陛下の耳に入り目に留まった以上、いずれ没落の憂き目は間違いない。その情報源を誰にするか。近衛騎士団の手柄にしてもいい。裏組織である情報屋を公表する気がないレイルは除外された。ならば、誰が情報を持ち込んだことにするのが一番利益になるか。


 狡猾なオレの質問の意味をくみ取ったシフェルが「あなた、でしょうね」と答えをはじき出した。異世界人は特殊な能力を持っている、そう吹聴して曖昧にしてしまえ。返った答えは想定内だった。


 近衛騎士団が情報を得たとするなら、根拠を示す必要がある。有罪確定としても黒かグレーかで、のらりくらりと逃げられる可能性があった。相手が貴族だからこそ、反論の余地を与えてはならないのだ。時間的猶予があれば、反撃される。


「じゃあ、オレの見せ場だな……本気出しますか」


 今までより気合を入れて潰しましょう。そう匂わせて、オレは立ち上がった。

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