124.皇帝陛下のおもてなし(3)

 あの侯爵のおっさんを煽るために、入場したリアムと1曲踊ってから離れる。リアムの護衛と毒見はシフェルが担当して、西の国の王女様はクリスがお相手するらしい。近衛兵はお仕事、味方である傭兵は会場に入れない。つまりオレの味方が誰もいない状況を作り出したわけ。


 根性悪いよな。餌を単独で泳がせて、おとり作戦じゃん。美人局つつもたせみたいな状況だよな? オレがあれこれ言われてしょげたところに、皇帝陛下自ら暴露したいんだろ。リアムが浮き浮きしてるのが伝わってきた。


「作戦は理解したよ。合図はどうする?」


「そうですね……キヨはまだ飲酒年齢に達していませんから、お酒を手にしたところで介入します。わかりやすいよう、手元に赤いお酒のグラスを用意させましょう」


「飲むフリしたら、シフェルが止めに入る――それが合図ね」


 打ち合わせは簡単すぎるほど短い。何しろオレのやる方法は、かなり反則技だから。臨機応変にオレが相手を煽って、怒らせて手を出させる必要があった。理性で抑えられないほど怒らせるのがオレの役目で、止めるフリして介入するのがシフェル、最後に止めを差すのが皇帝陛下であるリアムだ。


 不思議と全員の性格の悪い部分が生かされる作戦じゃないか? リアムの悪戯好き、シフェルの底意地悪いとこ、オレの口の悪さが総動員されていた。


「あ、ヒジリ達はどうしよう」


 連れて行かない選択肢はない。問題はどれを表に出して、どれを隠すか。いっそ全部外へ出してもいいが、過剰戦力過ぎて相手に避けられそうだった。


「黒豹殿は行くとおっしゃるでしょうね」


 シフェルもヒジリは外せないと思うのか。やっぱりイケメン聖獣だからな。嬉しそうに尻尾を振るヒジリの髭が、感情を示してぴくぴく動いた。得意げなドヤ顔が可愛い。


『私が出ましょうか』


 ドラゴン騒動で有名だろうと名乗りを上げるスノーに、コウコが異議を唱えた。


『それなら凱旋パレードで華々しく場を彩った、あたくしの出番ではなくて?』


『僕は寝てるから任せる』


 ブラウは声のみ送ってきた。不参加決定の青猫を放置して、残りの2匹が火花を散らす……前に、オレは決定事項を告げた。


「2匹とも留守番」


『『えええ!?』』


「オレのいた世界にはこういうことわざがあるんだよ――真打は最後に登場する。つまり、主役は遅れてくるものだぞ」


『わかったわ』


『そういうことなら』


 納得した2匹が影に引っ込んだのを確認し、リアムが真理を突いた。


「主役はセイだぞ?」


 その言葉にヒジリを含めた3人は顔を見合わせて、吹き出す。きょとんとしたリアムだけが、不思議そうに首をかしげていた。


 ――オレの嫁(予定)が可愛すぎる。

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