136.ヤンデレの取扱説明書(3)

 背中の温もりが眠りを誘う。うとうとしながら寄り掛かると、腹に回された手が外れて優しく頭を撫でられた。ヤンデレも上手に付き合えば使えるかも……使いこなせないと監禁コースだけど。ハードでも使いこなすのが、リアムをお嫁さんにする近道だ。


「髪を結い直す必要があるな」


 撫でるのに邪魔な簪を外したシンが苦笑いし、隣のレイルが簪を受け取って溜め息を吐いた。


「お前が撫でまわすからだろ。あまり構いすぎると、ヴィオラの時みたいに嫌われるぞ」


「それはない。キヨはいい子だからね」


 頭上で聞こえる声に目元を擦りながら欠伸をする。ヴィオラって、もしかしたら妹……じゃなくて姉? の名前だろうか。中身が24歳でも、25歳の女性は姉だ。


 ふわりと花の匂いがした。百合みたいな香りのきつい花……何だろう。もうひとつ欠伸をしたところで、足元にいたヒジリに指先を噛まれた。がりっと骨に届く勢いで牙を食い込まされる。


「痛っ、こら……」


 叱ろうとした足元で、ヒジリが唸っていた。何かに威嚇するような低い声の後、影から飛び出したブラウが毛を逆立てる。何かの攻撃があったのかとシフェルやレイルが武器を手に警戒する中、ブラウが風を起こして窓を破った。


「……何やってんの」


 傷を癒すヒジリを撫で、起きてこないコウコやスノーの姿に首をかしげる。ヒジリとブラウがこれほど警戒する中、彼らが動かないことに疑問を覚えた。手を伸ばして触れると、爬虫類特有の冷たい鱗がひやりと指先から熱を奪う。


 この部屋、寒くないよな? 変温動物の彼らが動かなくなるほど冷たいなら、どうしてオレらは平気なんだ? 指を動かしてぎこちない感じはしない。ならば温度ではないのか。可能性を潰しながら、答えを絞ろうとするオレの前で、ブラウが風を放った。


「ちょ……」


「何事ですか」


「わかんな……い」


 レイルとシフェルの文句に、素直にオレも疑問を口にした。まだ状況が理解できていない。ただ分かっているのは、何者かが危害を加えようとした形跡があり……ヒジリやブラウが怒っていること。それからコウコとスノーが戦闘不能の事実だけ。


 ひとまず冷たい聖獣を2匹抱き上げる。小型化しててくれて助かった。コウコが元のサイズなら宮殿が壊れただろう。冷たい彼らを胸元で抱き締めて温める。少しずつ温もりを移すオレは、この状況にありながら警戒心が薄い。実感したのは、押し倒された後で……事態は予想外の方向へ進んでいた。

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